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小説特殊慰安施設協会#39/千疋屋の闇

サムズ大佐は娼妓側にもペニシリンを供与することを決定すると、同時に週一回の性病検査実施を全ての米兵が出入りする施設へ義務付けた。娼妓だけではない。ダンサーも事務員も全てが対象である。R.A.A.では、慰安部もキャバレー部も、本部事務所の女子社員もその対象になった。協会としては何の反論もできなかった。

ダンサー寮で生活をするようになっていた千鶴子も、毎週検査をを受けた。その検査が始まると、ダンサーたちの間にも多数の罹患者たちがいたことが発覚した。 林譲は驚愕した。そして千鶴子に質問をした。 千鶴子は、口ごもりながら答えた。
「女の子の中には、ホールが終わってから直帰しない者もいます。」「・・・そうですか。どのくらいですか?」
「半分くらい・・です。みなさん、寮に帰るのは朝方です。」
「・・!」林譲は沈黙した。
キャバレーはチケット制になっていた。1回2円である。米兵は、曲ごとにこれをちぎってダンサーに渡した。ダンサーは一晩で50円ほどの収入が有った。足腰がガタガタになりヘトヘトになって50円。今の金額にして1万円程度である。女の子の手に残るのは、その半分の5000円。

米兵は、お気に入りの子が出来ると、熱心に色々なものをプレゼントした。そして店外デートへ誘った。まったく何もない時代である。特に米兵が持ってくるタバコや食料品といったプレゼントは何よりも誘惑的だ。ダンサーたちはその誘惑に勝てなかった。

そして、そんな彼女たちが受け取ったプレゼントを買い取る人間も、いつの間にかボーイの中に出てくるようになった。

ダンサーは米兵から、にこやかにプレゼントを受け取り、それをすぐさま楽屋でボーイに売る。ボーイはそれを裏口にタムロしている買い取り屋に渡す。そんなルーチンである。

プレゼントを受け取ったダンサーは、店が終わるとそのまま米兵と腕を組んで、夜の闇へ消えていく。
千鶴子の話に、林譲は下を向いて黙ったままになった。
考えられることだ。予想できたことだ。今の今まで、そんな事態になってしまうことに気が付かなかった自分に、林譲は腹を立てた。
「女の子から買い取る役のボーイは、一人なんですか?」林譲が千鶴子に聞いた。
「・・いえ。数名います。」
「・・そうですか。そのボーイの間で、もめごとが起きることはないのですか?」
「わかりません。」
「大変失礼ですが、萬田さんは?利用したことがありますか?」
千鶴子は、一瞬黙った。
「・・はい。あります。」
実は、利用しないわけにはいかなかった。最初、千鶴子は律儀に米兵からのプレゼントを断っていたのだが、そのことで「気取ってる」と一部のダンサーたちから毛嫌いされていたのだ。さすがにその話までは、林譲にできない。
「萬田さん。林田係長を呼んでもらえますか?」林譲が言った。林田は、キャバレー部の人事担当係長だ。
「ボーイたちの間で爭い事がないように、何らかの采配がいりますね。林田くんに指示します。」林譲が、それを禁止するつもりはないことに、千鶴子は安堵した。そして同時に、林譲が消沈したことに心痛めた。
ダンサーたちから村八分に有っても、私だけでも米兵からのプレゼントは断ろう。千鶴子はそう決心した。

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勝鬨美樹
無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました