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ベルジュラック04/サンテミリオン村歩き#49

ランチをL'Imparfaitで済ませた後、ホテルのほうへ歩いた。すぐ目の前にフォアグラのMaison Godardの店舗があった。目敏く見つけた嫁さんがさっさと入った。
Maison Godard(29 Rue des Conférences, 24100 Bergerac)
http://www.foie-gras-godard.fr/
「すごいわね」
瓶詰されたアンズタケGirollesとガチョウの油で煮たリンゴ豆Haricots lingotsそしてアミガサ茸Morilles Séchéesに驚嘆していた。
「Maison Godardの取り扱い品が全部並んでいるわ!全部買って持って帰りたい! 」と歯ぎしりをしていた。
「あのホテルにするなら、どこかキッチン付きのAirBにすればよかったのに・・」嫁さんが恨めしそうに言った。
「今回は一晩だけのベルジュラック泊だったから・・そこまで考えなかったな。もうしわけない」
「明日、チェックアウト?他のホテルへ泊まるの?」
「いや、明日は一日かけてベルジュラックのワイナリー見学をしてから、そのままカスティオンへ移動する。カスティオンは奥さんが好きそうなシャトーホテルにしたよ」
「ふうん。ならいいけど」
僕らはべルジュラック・プロテスタント教会Temple de Bergerac Eglise Protestante Unie(Pl. du Dr Cayla, 24100 Bergerac)の前に立った。
「ここはプロテスタントの教会だ。べルジュラックはプロテスタントの町なんだ」
「じゃあ神父様じゃなくて牧師様?」
「ん」
「Protestante Unieって書いてあるわね?Churchじゃないの?プロテスタント連合?」
「英語はUnited Protestant Church of Franceだ。Churchを使ってる。フランス語は Église protestante unie de Franceだ。unieを使っている」
「どうして?」
「どうしてって・・長い話になるよ。フランス改革派教会とフランス福音ルーテル教会が統合されて、この名前になった」
「それ聞いただけで、長い話になりそうね」
「ん。カルビン主義とルーテル派の確執から始めることになるからな‥今回は止めとこ」
「賛成。煩雑な話だろうから、どうせ聞いても明日には忘れてるし」
「そりゃ酷い。まあでもいまはフランスを縦断するように広がった宗教戦争が、ガスコーニュに入りると、カトリックが支配したペリグーPérigueux。そしてプロテスタントが支配したベルジュラックBergeracの二つに分かれて抗争をくりかえしたことだけ憶えておこう」

べルジュラック・プロテスタント教会は静謐な美しい教会だった。カトリックの教会のような虚飾しか思えないほどの壮麗さとは縁がない。人々の信仰の場というのがはっきりと感じられた。
「聖書だけを信仰の拠り所にするべき・・ということ?」
「ん。質実剛健・・だな。アメリカのルーツと同じだ」
「なるほどねぇ、昨日伺ったサルラ・カネダの教会とはホントに違うのね」
「ルター派の、教皇と教会の権威をきびしく否定することで宗教戦争は始まっている。彼らにとっては命を懸けるべき問題だったのかもしれないな」
「そうなのかしらねぇ」
「大学の頃、僕の先生だった石田さんが言ってた。シュレンジンガーがドイツの大学で、光が波か粒子ではなく光子というべつの存在だという話をすると、学生たちは喧々諤々の議論を始めるそうだ。なぜ波と粒子の性質を持つものが有りうるなのかってね。ところが、彼がアメリカへ亡命してアメリカの大学で同じ話をすると、アメリカの学生たちは『ふうん』で終わってしまうそうだ。シュレンジンガーは、それに驚嘆したってね」
「あ。そのこと良く分かるわ。わたしも、ふうん側だわ」
「極悪人でも聖人でも、敵でも見方でも、死ねばホトケ。日本人の気質にもきっとシュレンジンガーはビックリしたかもしれないな」

僕らはTemple de Bergerac Eglise Protestante Unieの横を抜けるレコレ通りを歩いてドルドーニュ川に向かって歩いた。通りの向こうに川が見える。
「唐突なエリアノールとアンリ二世の結婚が、長い悲惨な英仏百年戦争をもたらすのだが・・ワインの繁栄という観点から見ると、アキテーヌとノルマンジーが英国のものになったことで関税は雲散し、ボルドーBordeauxとラ・ロシェルLa Rochelleは急速に繁栄したんだ。アンジュー帝国建国は大きな利益を二つの地域にもたらしたわけだ。これがボルドーの第二の黄金時代だった。付随してロット川のカオールも、ガイヤック川のガイヤックも、ガロンヌ川中流のビュゼも、そしてドルドーニュ川の幾つかの都市も大いにワインビジネスが花開いたんだ」
「それがリブリヌの開港へつながるわけね」
「ん。アンリ二世の孫アンリ三世の府令だ。1255年だ。彼はこの時、さらに上流のベルジュラッにも同じような貿易の権利を許している。このときベルジュラックは大きく胎動した。そして1209年だ。ベルジュラックはドルドーニュ川を跨がる石橋を架設したんだよ。Vieux Pont de Bergeracという」
僕は目の前の橋を指差した。目の前、川の中央に噴水が有った。

「何回か改修されてるが今でも石橋として健在だ」
「800年経ってるの!びっくりね」
「この橋は数世紀にわたってドルドーニュ川中流に架けられた唯一の橋だった。この橋が出来たことでベルジュラックは、リブリヌ上流でもっとも重要な貿易拠点になった」
「なるほどねぇ」嫁さんは立ち止まってしばらく古橋を見つめた。
「少し戻るよ。観光センターがすぐそこに有るんだ」
Quai Cyrano(1 Rue des Récollets, 24100 Bergerac)
https://www.pays-bergerac-tourisme.com/fr/a-voir-a-faire/patrimoine/quai-cyrano

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勝鬨美樹
無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました