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悠久のローヌ河を見つめて14/マリエとクロジェ02

1383年、ローヌ川流域の町サンスの教会/貴族から、フランス王シャルル六世(1380~1422)に対して「マリエの怠慢な仕事ぶり」についての告発がされている。
「マリエは、我々と終日労働を提供すると云う契約を交わしているのにもかかわらず、仕事に手抜きし労働時間を勝手に短縮してしまう。これは神と法に背く行為でありながら、当たり前のように横行し、日当は当然のように契約時の金額を持って行ってしまう。」(Ordonnances des rois de France de la torisieme race)
1347年の冬から始まったペスト禍によって労働人口が激減し、マリエたちの気質も大きく変わったためだ。
彼らは折半農家として自分の畑も手に入れたので、時間の大半をこれに注いだ。ローヌ川流域の場合、彼らが育てた農作物の多くが葡萄の木だった。あらゆる農作物の中でワインを作るための葡萄の栽培が一番事業効率が高いからだ。
マリエたちは、自分の畑に植える葡萄の木を、教会/貴族の畑から盗んだ。そして支柱用の木/葡萄の木が自立するために、木と葡萄を繋ぐ「葡萄の木用メリヤン/柳の細い枝」も盗んだ。見よう見真似で、葡萄を醸造する技術も、道具も、隙を突いて公然と盗んだ。その横行が、あまりにも酷かったのだろう。
前述1383年サンスからの告発のほかにも、シャンパニュー地方のシャロン・シュル・マルスからも1383年。ロアール地方のオーセールからは1393年。ラ・シャリランテ・シュル・ロワールからは1402年。続けざまに出されている。

フランス王ジャン三世は「マリエは勝手に労働時間を短縮してはならない」という王令を1351年の1月に出しているが、これは殆ど無視され続けた。働き手の過疎は、いやでも働き手を高慢にしてしまうものだ。そしてその高慢さが連結を生み出す。権利が主張される。
エティエンヌ・パスキェEstienne Pasquierは以下のように書く。
「マリエたちは、手にしている鋤を石で叩いて仕事を放り出す時間を知らせ合う。オーセールでは、午後三時を告げる教会の鐘の音を聞くと、マリエたちは一斉に仕事を止めた。」(Les Rechees de la France)
当時、労働契約とは夜明けとともに始まり日暮れとともに終わるものだった。マリエたちは自分の畑で働きたいがため、この契約を無視した。
1989年、オーセールで出された告発には、以下のような文言が有る。
「奴らは大声で喚いたり叫んだりしたので、この声は辺り中に聞こえた。奴らはこれを合図に仕事を放り出し、酒を飲み始めた。そしてこうした叫びが法律で禁止されると、今度はオオカミのような叫び声をあげた。そして全員が仕事を放棄した。」(Notes d'histoire sociale,Les vinerons d'Aixerrrois)

さて。一歩下がって。なぜマリエたちは自分の畑にさっさと帰りたかったのか?彼らが自分の畑で作る稚拙な粗雑なワインは、町に運べばそれなりの値段で売れたからだ。
ワインは長い間、ある程度裕福な人々で無い限り日々口に出来るものではなかった。ところが荘園制度が機能し始めたことと、幾つかの大きな技術革新が為されたことで、町の人々は豊かになった。たしかにペストによって人口は激減したが、それでも生活を支える基盤整備は、次の千年紀に入ってから格段の進歩を示していたのである。ゲルマン人フランク王が目指した"ローマ化/キリスト教化"による先進技術の導入が、見事に花開いた時期だった。"民"と云う広い購買力/マーケットが、ここに生まれた・・と云えよう。
こうした新しいマーケットに向けて、マリエたちは教会/貴族たちとは違うワインを提供したのだ。そしてこのマリエたちのネットワークの中から、安いワインを取り扱う新しいタイプ仲買いの商人が現れ、利は薄いが大量に売り捌くというビジネスモデルが芽生えて行った。
教会/貴族の独占を突き破る商人たち/労働者たちの台頭だ。
ここから産業革命前夜が始まる。

ところで。
こうした傍若無人なマリエのやり方に、教会/貴族たちが翻弄された様子を見ると、僕は此処に徒党を組んで自らの主張を叫び「階級闘争」を叫ぶ、共産主義の萌芽を感じてしまう。事実「徒党を組めば使用者に勝てる」ということに労働者が気が付いたのは、この時が史上初だったのではないか?マリエの遣り方が"階級闘争"という発想の起点になり、マルクス主義を生み出し、パリ革命を生み出し、19世紀/20世紀に仇花のように咲く「労働者の反乱」を生み出して行ったのではないか?
そして、眼の上のタンコブだった「教会/貴族」を引き摺り倒したい商人たちが、こうした革命に資金供与する・・といった図式が始まったのではないか?

実は・・僕はその段階から芽生える、共通の敵である「教会/貴族」を失った後に始まる「労働者/商人」が相食む姿・・ウロボロスの蛇の姿/現代を幻視してしまう。

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました