星と風と海流の民#34/ビショップ博物館#02
一番最初に科学アドベンチャーセンターに入った。開館すぐだったので、孫たちの一人舞台だった。朝一番に来て、大正解。火山や海洋生態系など、ハワイの独自の自然環境に関する展示が豊富だが、此処のハイライトは、ハワイ島のキラウエア火山やマウナロア火山の活動をシミュレートした展示物である。火山噴火のメカニズムや、溶岩の動きなどを体験型で学べるよう作られている。大きな音と映像に孫たちは驚いていた。それと、ハワイ周辺の深海に生息する生物に関する展示や深海魚やサンゴ礁の生態系が展示されていた。
大きな広場を通って、ビショップ博物館の展示ホールへ入ると、左側に「ハワイ王国の王冠と宝物展」室がある。
カ・メハメハ大王やリリウオカラニ女王らが実際に使用した王冠や衣装、様々なアイテムが展示されていた。特に王族が使用したカパ(樹皮布)とアフ(羽毛製マント）王族の権力を象徴している。
カ・メハメハHamehamehaはハワイ島のカパアウの酋長である。それに軍事力と資金を提供したのが英国政府だった。近代的な武器を持った彼は、瞬く間にハワイを占領した。未開な国を征服するときに利用する常套手段を英国は利用したわけだ。・・同じように長州薩摩に金を注ぎ込んだ英国は、日本列島もこの手を使われている。
「ハワイ王国の王冠と宝物展」は、その英国の植民地戦略に現住民首領一家が翻弄され、そして外圧によって米国へ鞍替えが始まり、最後には没落するまでの「外資による成り上がり王族」100年間の軌跡をまとめた展示室だった。
ウェハースのように重ねられた綺麗な言葉の裏に、通奏的に流れる悲哀を感じた。
右側には太平洋ホールがある。ハワイを含む太平洋地域の文化に焦点を当てた展示で、ミクロネシア、ポリネシア、メラネシアの文化を紹介している。ハワイに渡って来たポリルシァ人はマルサス諸島から人々で、1600kmの海の旅を思わせる素晴らしいホールだった。上空には巨大なクジラが浮いている。
ラピタの血を引くポリネシア人は、ラピタのカヌーをさらに進化させ、多くの人々が乗れる航海カヌーを産み出している。まさに「星と風と海流の民」の最も進化した人々の姿だ。
そしてポリネシアの刺青が展示されており、その模様の持つ意味やスティタスが解説されていた。僕は『魏志倭人伝』を連想した。「男子無大小 皆黥面文身」である。男子は大小無く、皆、黥面文身す、とある。"鯨面"は顔にする刺青だ。"文身"は身体に彫る刺青である。ラピタから始まる隼人の血を鮮々と見て鳥肌が立った。
そして釣り針コレクションである。ポリネシアントライアングルの島々で使われている釣り針を比較研究して、伝搬の経緯と時間を測った。篠遠喜彦博士の功績である。
二階はポリネシア文明のさまざまなコレクションが集められている。
ポリネシア人にラピタを象徴するものはない。彼らの血は人々の中に吸い込まれて、言葉や風習や技術に残っているだけだ。ポリネシア人はラピタ人が使用していたオーストロネシア語を使い続け、拡散しても常に、その文化性、言語的な一体性は崩壊しなかった。例えばポリネシア諸語「moana（海）」は、太平洋全域で使われている。文字を持たないラピタの末裔にとって、言葉は何よりも重要な文化の伝達手段だ。自分たちの歴史や価値観を子供たち/次世代に彼らは口伝承あるいは仕草・踊りで伝えた。ここにも無数に稗田阿礼がいた・・というわけだ。
僕は、ビショップ博物館の展示ホールを彷徨しながら、鹿児島市立ふるさと考古歴史館を思い浮かべた。そして同時にソウルの国立博物館の先史文明コレクションを思い出した。
海はひとつだ。海で繋がる文明は、血の繋がりを海を以て繋がる
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