堀留日本橋まぼろし散歩#03

正月ま近の冬桜。あ～でもない。こ～でもないと、色々なカットを嫁さんが追い掛け回している。
「ここには、ほんの少し前(30年ほどまえ)「万安楼」という料亭が有ったんだ。このお社はその屋敷の庭にあったんだよ。僕の子供の頃には有った」僕が言うと、冬桜の撮りながらの嫁さんが
「ふうん。じゃずいぶん昔ね」と言った。
「だ～か～ら、ほんの少し30年くらい前だって言ったろ」
「ふ～ん・・ずいぶん前ね」
「銀座はな、江戸時代、武家屋敷が多かった。木挽町も京橋に面した辺り、築地川に沿った処に新庄美濃守さまのお屋敷が有った。これを明治に入って鈴木専吉てぇ男が買って自分ンちにしてた。これが料亭旅館になったのが万安楼だ。」
「旅館だったの?それがマンションになったの?」
「そういうわけだ。僕に強い印象として残ってる万安楼は、粋な黒塀に見越しの松じゃなくて、成瀬巳喜男の『風立ちぬ』なんだけどね。」
「あ、成瀬監督ってあなたの好きな赤烏帽子ね。」
「そうです、亭主の好きな赤烏帽子です」
https://www.youtube.com/watch?v=xb1cwllbqAc

2010年に帰国して、嫁さんチョイスで今のアパートを選んだ時、この万安楼の黒塀がきれいサッパリ無くなってて、其処にでっかいマンションが建ってることにほんとビックリした。
いつも思うんだけど、東京のスクラップ&ビルドは「欠落」するそれだ。マンハッタンもスクラップ&ビルドの街だけど、どちらかと云うと「累積的・堆積的」だ。日本の場合は根こそぎ無くなっちまうから、無くなった跡を通りかかったりすると・・あれぇ、此処って何が有ったっけェ。と思ったりする。
それでもこの巨大なマンションなんだが。建てる時に、楼内にあった安平稲荷は取り壊されないで、すぐ傍に鎮座させている。弥生弥生。

前に書いたこと有るけど、僕の朝の銀座歩きは、たいていアパートを出て、このお社の前を通って街へでる。そんなとき、近所に住むOLさんだろうか、出勤前、静かにお社に手を合わせて参拝してる姿を時折見かける。いいなぁ小粋だなぁと思って、そんな日はとっても爽やかな気分の朝になります。銀座、佳いもンです。

ところで銀座村なんだけど、実にお社の多い村でして、ちょいと数えただけでもお稲荷さんが26。でないものが7つある(受け売りデス)
つらつら名前を並べてみると、一丁目は幸稲荷・法力稲荷・安平稲荷、二丁目は天玉稲荷・銀座稲荷・永久稲荷・一平稲荷、三丁目は朝日稲荷・宝珠稲荷、四丁目は銀座稲荷・一平稲荷・歌舞伎座稲荷、五丁目は白笹稲荷・熊谷稲荷・豊川稲荷・あづま稲荷、六丁目は清澄稲荷・玉樹稲荷・伏見稲荷・かく護稲荷・七丁目は成功稲荷・三剣稲荷・豊岩稲荷・熊谷稲荷、八丁目は金春稲荷・光高稲荷。
これだけ並べりゃ、読んでるだけでも、ずいぶんみなさんくたびれた・・
書いてる私もくたびれた。
だから今日は、これだけ書いてもう終わりにしようと思ったけど、続ける。

まあ、これだけお稲荷さんが多いとね、夜の銀座のネオンの下に、無数の仇なオキツネ様が8時の同伴タイムの直前になると、ソコイラじゅうに徘徊してるのも諾るかなと思ってしまう。

きっとまた　必ず来てね　タロもって。
(タロってお給金のことね。←蛇足)

ということで、銀座村はカミサマの多い村なのだ。だから神無月は大変なことになる。10月のことだよ・・と書くのは蛇の足。この月は、神様の社員旅行だから、みんな出雲に行っちまう。ンで、向こうでカミサマ集まってドンチャン騒ぎをするんだ。荒神様なんて酔っ払って、福禄寿と喧嘩始めちゃうし・・あ、キりないからこの話は止めとこ。

銀座で、お稲荷さんの他に本寸法といえば日枝神社。銀座の氏神様は同社なのです。
僕のお気に入りは八丁目に有る八官神社で、此処はもともと八官町十二番地(今の銀座八丁目）に鎮座おわしてた穀豊稲荷神社なんだけど、関東震災で銀座が燃え落ちた時に、ついでに町名を換えちまおうという薩長くだりの不届きモノたちに対抗して、有志が芝大神宮と合祀して、せめて神社の名前にだけでも「八官町」を残そうとした苦労の賜物なんですよ。
残そうと思えば、如何ほど官憲が猛威を振るおうと・・そこそこ残せるもンなんだろうけどな。
日本橋のこと、神田のことを書いてて、そう思ってしまった。