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星と風と海流の民#51/スンダランドとイヴの子供たち#01
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プノンペンRaffles Hotel Le Royalのバーラウンジ。アルコールを口にしているのは僕と先生だけ。
若い二人はコーヒーだった。
「先生から『沿岸特急』の名前を伺って、メダン市にある博物館Museum Negeri Sumatera Utaraを思い出しました」と僕が言うと、先生はすぐに応えた。
「トバ湖遺跡ですか?」
「はい。どうしても『ミトコンドリア・イブ』の末裔が東進した軌跡を幻視したくて、トバ湖を何年か前に訪ねてみたことがあるんです」
トバ湖Lake Tobaは、インドネシア・スマトラ島の北部に位置する世界最大級のカルデラ湖だ。ここには最終氷河期(約2万年前)の現生人類の遺跡が数多く残っている。
「地元のガイドに案内されて幾つかの洞窟を見て、トバ・バタック博物館Museum Huta Bolon Simanindo(QP2V+VJX, Jalan Pelabuhan, Simanindo Sangkal, Simanindo, Samosir Regency, North Sumatra 22395,Indonesia)も見学してきました」
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「その時にメダン市立博物館Museum Negeri Sumatera Utara(Jl. HM. Joni No.51, Teladan Bar., Kec. Medan Kota, Kota Medan, Sumatera Utara 20217,Indonesia)も尋ねました」
「ミトコンドリア・イブ?」若い二人が不思議そうな顔をして先生をみた。
「ミトコンドリアDNA(mtDNA)というのがある。ミトコンドリアは母親から子供にのみ受け継がれる特徴を持っているんだよ。実は、現代に生きるすべての人類について、mtDNAを通して母系を遡っていくと、ただ一人の女性に辿り着くのです。現存する人類はただ一人の女性の末裔なんだよ。それをミトコンドリア・イブと呼んでいる」https://www.youtube.com/watch?v=NKdgLqDLPVs
「たった一人の女性からですか!」若い二人が驚きの声を上げた。
「もちろんたくさんの女性たちがいたに違いない。しかし末裔が残したのはたった一人だった。あとはすべて途絶えた。おそらく現生人類は、個体数が2000を切る絶滅寸前になるまで落ちたこともあるからね。Bryan Sykesの"The Seven Daughters of Eve"という本があるよ。ぜひ読んでみるといい」
若い二人はナフキンに急いでその名前を書き込んでいた。
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「そのイブの子供たちが東アフリカからアラビア半島南東部までは海岸部を経由して南アジアへ拡散した速度があまりにも早かったことから、ポール・メラーズ博士Dr.Paul Mellarsは『沿岸特急』仮説というのを唱えた。その軌跡を追ってKonMikeはトバ湖へ行かれたんです」先生はそう言いながら僕の顔を見つめた。
僕は笑顔で頷いた。
「トバ湖?スマトラですか?」二人が言った。
「そう・・氷河期が終わった後もスマトラは島として残ったからね」僕が応えた「トバ湖に点在する最終氷河期の遺跡は『沿岸特急』で東南アジアにやってきた『イブの子供たち』が遺したモノなんだよ」
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