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甲州ワインの謎#15/薬師如来と葡萄#02

\大善寺のホームページをみると「「当寺の開創は養老二年(718)。行基菩薩が日川渓谷の岩上で、霊夢により感得された像、手に葡萄を持った薬師如来と日光・月光菩薩の薬師三尊 ~ を刻み安置して開かれたと伝えられます」とある。
養老2年(718)に僧行基が柏尾の地で祈願を続けていたところ、21 日目に忽然として薬師如来が霊夢となって現れ、その右手にはブドウをもっていた。彼はその姿を彫った。

行基は、百済から渡来した王仁の裔である。王仁は「古事記」に「論語」「千字文」をもたらした人で「応神紀」には、彼を応神天皇の皇太子菟道稚郎子が師としたとある。渡来の知識人である。行基はその血と智を受け継いでいる。行基は薬師寺の僧となり、土木技術の知識を駆使して、各地に橋を架け堤を築き池や溝を掘り道をつけ樋を渡し船息を作った。まさに渡来人の道を行った人だった。・・その彼が彫った仏像が「手に葡萄を持った薬師如来」である。
是非じっくりと見つめてほしい。葡萄である。どうみても地葡萄クマガワブドウ/アマヅル/リュウキュウガネブ/ヨコグラブドウ/ケナシエビヅではない。山葡萄にしては実が撓わすぎるのだ。だとしても中国南部に自生するVitis davidii FoexやRosa laevigata Michxにも見えない。むしろ現代の甲州種のように見えるのだ。ぜひご自分の目で確認してみてください。

前述したが「甲州種」はビニフェラ71.5%、東アジア系野生種ビティス・ダビィ28.5%のハイブリットだ。
ビティス・ダビィVitis davidii Foex(脊椎ブドウ)は耐寒種である。一方ヨーロッパ種ビニフェラは寒さにはめっぽう弱い。・・これは全くの妄想だが・・まず耐寒性を得るためにビニフェラとビティス・ダビィを掛け合わせてたに違いない。しかし出来上がった葡萄はワインにするには苦みが高かった。なのでその50%/50%のハイブリッドに再度ビニフェラを掛け合わせた。そのために71.5%/28.5%になったのではないか。

では、いったい、だれが?・・いつ??である。「史記・大宛国伝、博物志等」は、漢の武帝が西域にいる汗血馬を求めて張騫を西域に派遣した折、帰国したとき彼が「蒲萄」という芳香な酒を醸す果実を持ち帰ったとする。司馬遷の記述は極めて信頼が置ける。この口伝についても司馬遷は傍証を取ったと考えられるので、おそらく史料として正しいのと見ていいだろう。
Budawブーダウは古フェルガーナ語である。
Ferganaは、現ウズベキスタン・。フェルガナのことである。フェルガナ盆地は、アラル海に注ぐシルダリア川の上流とカラテギン(フェルガナ)山地に挟まれたの南端にある。同地は名馬の産地で張騫は此処を訪ねたのではないか?彼によって持ち込まれたBudawブーダウが、酒を醸すための果実として主に華南(楚の国あたり)に定着し、名称も蒲萄から葡萄となったのではないかと考えられる。
それが開府を挟んで朝鮮半島南部に伝わり、日本へ持ち込まれたと僕は見ている。
何故、大陸華南から直接ではなく開府を挟むか?
実は、酒造のための果実として用いられていた葡萄が、同様の目的で日本へ持ち込まれたとするには、無理があるのだ。
日本側に「葡萄から酒を造った」という記録が皆無なのである。
果実から酒を造ることそのものは先史から行われていた。縄文時代の遺物からも甕の底に野葡萄(ヴィティス・コワネティーのようだ)の種が付着したものが発見されたりもしている。ヴィティス・コワネティーは大陸太平洋岸東北部・サハリン島/南千島/日本列島(北海道、本州、四国)/鬱陵島(韓国)などに自生しているが、実も小さく味も良くないので、果実酒には適さない。なので広範囲には作られていなかったようだ。
となると・・やはりここで誰が・何の目的で・日本へ持ち込んだのか?という大きな疑問にぶち当たってしまうのである。

それはさておき「甲州」という場所だけで特定するなら、郷土史研究家・上野晴郎氏は、その著「勝沼町と葡萄の歴史」の中で、この大善寺建立の時(971年)に甲州種は持ち込まれたのではないか?と書く。たしかにその可能性は高い。ではなぜわざわざ「葡萄」なのか?という疑問も出てくる。たしかに葡萄は薬用に用いられていた。しかし薬草としての葡萄は別にそれほど突出した薬効をもつわけではない。他のものでも十分賄える程度のものだ。
となると・・葡萄が「わざわざ」此の地に持ち込まれた理由はほかにあるのではないか??と僕は考えてしまうのだ。

ちなみに・・岡山にヴィティス・シラガイという同地にしかない葡萄がある。シラガイは日本で一般的に見かける野葡萄ヴィティス・コワネティーが寒冷種なのに対して、温暖種だ。唐突に岡山だけに自生している。


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勝鬨美樹
無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました