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星と風と海流の民#26/ラピタの地・テオウマ遺跡

ロイマタの領地を出た後、ヤンのAMGはさらに北上続けた。途中シヴィリ洞窟Siviri Cavesへ寄った後、さらに走り続けると、緑の原生林の埋もれた鈍色の礫州が白い砂浜をまたがっているところが見えた。
「あれだ。あれがピキニニマルウアPikininiMarouaだ」
意外に小さい。
ヤンはAMGを停めた。そして車の前へ出た。
「住民は近づかない。漁師もこの辺りは避けて通るそうだ。まるまる砂鉄が剥き出しになった礫州だからな。磁気の影響があるのもしれない。長い間見つめていると悪神に心を吸い取られるという話を古老から聞いた」
ヤンは道路から出ないままだった。
「この礫州は解体しただけで採算まで達するのか?」
「いや、ムリだ。しかしこの砂鉄の層は海中まで繋がっている。海中には膨大な宝の山だ」
「海中の掘削許可は?」
「まだだ」
まだか・・僕は無人の海を見つめて黙った。
「この辺りはロイマタの領地ではなかったらしい」
「旧いタブーには触れなかったんだろうな。ロイマタの一族がこの島へ来たのは1000年くらい前だ。バヌアツに海流の民が入ったのは、それより2000年くらい前のことだ」
「それがラピタ人か」
「ん。・・この先にテオウマ湾というところが有ると思うんだが・・」
「カーナビで見てみよう」ヤンはそれ以上鈍色の礫州を振り向かないまま、クルマへ戻った。
しばらくすると「ある。まだ少し先だ,行ってみるか」
僕はPikininiMarouaを何度も見直しながらクルマに乘った。ヤンは僕が乗るとすぐにクルマを走らせた。
「テオウマ湾はわかるが、何処に遺跡が在るかは分からないな」
「いや、いい。発掘されたものは、明日、博物館に行けば見られる」
「なるほど」

「バヌアツはニューカレドニア島、フィージー島とともにユーラシア大陸東岸で生きた隼人たちが大海へ拡散していく、ず太いルートだったんだ。しかし最近までバヌアツでラピタ人の遺跡はほとんど確認されていなかったんだ」
「どうして?」ヤンは聞いた。
「津波や嵐などの天変地異と、遺跡が残るほど気候が安定していないからな。1000年も経てば風化してしまう環境だ。それに文字文化はもっていない人々だから、それもない」
「北部のマロ島に少しラピタ人の遺物があることは1970年くらいに確認されていた。あとはエファテ島中央部のエルエティ遺跡。エロマンゴのイフォ遺跡。北部マラクラ(マルア湾)くらいなものだった。どこも歯形刻印のある特徴的なラピタ土器の破片できただけだった。発見は困難だったンだよ。どこも砂質腐植土で覆われてね、それも狙いをつけて1m近く掘らないと発見できない。あまりにもお金のかかる発掘発見事業だったんだ」
「なるほど・・だれがそれに金を出すか?だな」
「ん。それでも2000年代に入って、資金投与された調査がサント地区で行われた。これは今の海岸線の後ろにある隆起した段丘状の部分を徹底調査したもので、これによって保存状態の良いラピタ彩色土器と墓地が発見されているんだ。特にアオーレの北部マクエは保存状態が良くて、ここでは黒曜石の剥片が大量に見つかっている」
「黒曜石?石のナイフだよな?」
「ん。非常に貴重なもので、最も高価な交易の対象物だ。何百年も使えるので、交易の対象で原産地から非常広い範囲で換算している。黒曜石はフィリピン/ルソン島やミンダナオ島で産出する。これが何百年単位で人から人に伝わってきたんだ」
「数千キロ。数百年をかけて、それがバヌアツまで辿り着いた・・というわけか」
「ん」
「で。これから行くテオウマ湾は?」
「バヌアツで発見されラピタ人遺跡の最大成果だ。ここで太平洋諸島で発見された最古の墓地がある」
「最古?」
「BC1000年ころの墓地だ。此処では36体の遺体が見つかっている。埋葬されていたのは26体だ。遺体はすべて頭蓋骨が取り除かれていて、イモガイで作られた輪に置き換えられていた」
「頭がない?!」
「何か呪術的な処置だろうな。何故だかは分からない」
「ん~」ヤンはうなり声をあげた。

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました