猫になれたとしたら。
作:みけれこ
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〇猫になりたがりな僕等シリーズ
〈第4弾〉
●比率…♂︎1:♀︎1 【性別変更不可×】
●時間…約40分
※こちらの作品は、ほんのり同性愛を思わせる表現があるので、苦手な方はご注意ください。
《登場人物》
♀︎種島 紗季(たねしま さき): 社会人、26歳。近所の洋菓子店で働いている。明るく元気で気さくな性格で、お店の看板娘として地域の人気者。(長めのモノローグ有り)
♂︎ 葉山 蒼(はやま そう): 高校2年生。分け隔てなくフレンドリーに誰とでも接することができる。自分の下に年の離れた弟と妹がいるので、面倒をよく見ている。両親は共働き。紗季が勤めている洋菓子店の常連。
▽名前のみ登場する人物
♀︎雪(ゆき)…紗季の幼馴染。近所の病院で事務をしている。紗季に想いを寄せている。
▽以下から本文▽
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紗季(M):子供の頃は当たり前に出来ていたことが、大人になるにつれて、とても難しくなっていくものだと、最近とても感じる。
世間体だとか、周りの目だとか。そんな事を沢山身につけていく内に、自分の本当の気持ちに従っていくことや、それを感じ取り受け止めていくことが、簡単には出来なくなっていく。そしていつしかその力は、鈍っていく。私の本当の気持ちはどうなのだろう。もう随分と靄(もや)が掛かってしまって、よく見えなくなってしまった。
素直に自分の気持ちと真っ直ぐと向き合い、受け止めて、そして行動していく若い君が。私にはとても眩しく感じる。
(仕事が休みの日の夕方、買い物に出て来た種島紗季。その道中に、見知った後ろ姿を見かけ、声をかける。)
紗季:蒼(そう)くん?
蒼:えっ!うわ!びっくりした!紗季(さき)さんじゃん!
紗季:おお、やっぱり蒼くんだった!ちょっと久しぶりじゃん!元気してる?
蒼:めっちゃ元気元気!えー!まじでびっくりしたー!いつも店で会ってるから、一瞬誰か分からなかった!私服だと雰囲気違く見えるね!
紗季:確かにね。いつもお店で、制服姿だからねー。
最近お店に来てくれないから、どうしてるのかなって、昨日も店の人と話してたんだよー。
蒼:まじで!何かごめん!
紗季:いや、別に謝ることではないけど!蒼くん結構頻繁に来てくれてたから、どうしたのかなって思っただけ。元気そうで良かったよ。妹ちゃん達も元気?
蒼:元気っすよー。元気すぎて困るくらい。
紗季:あははっ、それくらいが丁度いいよ。元気なくて心配ってなるよりさ。
蒼:それもそうかなって思うけどー。…ちょっとここ最近、俺が友達と軽く遊んだりしてるから、なかなか紗季さんのお店に行く時間が取れなくて。そしたら昨日、めっちゃチビ達に怒られたー。最近ケーキ買ってきてくれない!ってさ。あいつら、紗季さんのとこのケーキめちゃくちゃ好きだから。
紗季:ははっ怒られたんだ!可愛いなぁ。そんなに気に入ってくれて、私達も嬉しいよ。妹ちゃん達も元気そうで良かった!
蒼:いやもう、本当、お陰様で!俺も母ちゃん達も、紗季さんのとこのケーキにめっちゃ助けられてるよ!あいつら野菜、嫌いでさー。普段なかなか食ってくれ無いんだけど、紗季さんとこの、野菜のケーキ!あれはすっげー好きで、あれなら食ってくれるから。…寧ろもっと食わせろってせがまれて、ちょっと困るとも言うけど。
紗季:本当に?わー!それは、うちのパティシエ達もめっちゃ喜ぶよ!野菜スイーツは特に力入れて作ってるからさ。まさに、野菜嫌いの子達にも食べて貰えるようにって。…そっかぁ、嬉しいなぁ。明日、皆にも伝えておく。それにしても、相変わらずいいお兄ちゃんだねー。
蒼:いやー?どうだかなー。喧嘩もよくするし。ま、楽しいけど。あいつらと一緒にいるのも。
紗季:いつも妹ちゃん達も、お兄ちゃんお兄ちゃんって凄い甘えてるし、みんな蒼くんの事、大好きなんだなって、見てても分かるよ。
蒼:何か紗季さん、めっちゃ俺の事褒めるじゃん!恥ずかしいから、勘弁して?!
紗季:あはは。ごめんごめん。久しぶりに会えて、何か嬉しくて、ついね!
蒼:もー。どんだけ俺の事好きなのー。
紗季:蒼くんファミリーの事は大好きよー。
蒼:はは!ありがとう!また、あいつら連れて買いに行くから、よろしくお願いしまーす!
紗季:楽しみに待ってるよ。店の人達もみんな会いたがってるし。
蒼:まじか。有り難いなぁ。てか、紗季さん今日は休み?
紗季:そう、久しぶりに休み取れてさ。家に何も無かったから、買い物に行ってたんだ。蒼くんは、学校帰り?
蒼:まーそんな所かな。俺も、今日は母ちゃんが早帰りで家に居るから、友達とゆっくり遊んでたんだよね。
紗季:へぇーそうなんだ。途中まで確か方向一緒だったよね?そこまで一緒に帰ろうよ。
蒼:いいよ!俺、荷物持つよ。さっきからずっと重そうにしてるし。
紗季:ええ!いいの?めっちゃ助かるー。ありがとう。(荷物を渡しながら)最近ほんっと忙しくてさ、満足に買い物も出来なくて。一気に色々買っちゃったから、重たくて困ってたんだよね。
蒼:もしかして、これを期待して俺に声掛けた?
紗季:…さてさて、それはどうかなー?ふふふー。
蒼:ああー…悪い大人に捕まったなー俺も。
紗季:なんて、そんな訳ないでしょ!見知った後ろ姿だったから、つい声掛けちゃっただーけ。…それにしても、いいねー。学校終わりに友達と遊ぶとか。青春だねぇ。
蒼:青春?全然、そんな事は無いけど。ちょっと気になってる奴が居て、最近ようやく話せるようになってきたからさ。嬉しくて、俺がずっとそいつに付き纏ってるだけ。
紗季:え、付き纏ってるの?それ大丈夫?嫌われない?
蒼:元々、俺の事嫌いらしいから、大丈夫じゃん?
紗季:え?どういうこと?友達なんでしょ?
蒼:うん。一応。やっと友達認定はしてくれたって感じ。でも俺の事は嫌いなんだって。
紗季:んーーー?よく分からないんだけど。
蒼:俺もよく分からねぇけど、でも友達認定はしてくれたから、まーいっかって。めっちゃ付き纏ってる。
紗季:それは…余計に嫌われない?
蒼:んー。でも、嫌な顔しつつ、会話はしてくれるし、前よりも話を聞いてくれるようにもなったし。突き放してもこないから、大丈夫って事だろうって俺は思ってる。
紗季:へぇー。何か、不思議な関係だなぁ。
蒼:元々そいつさ、人間嫌いみたいで。全然人と関わろうとしない奴で。だから、まぁ、俺はそんなにそこに疑問は持たないんだよね。よく分かんねぇけど、ツンデレ?とか言うやつに近いのかなって思って見てる。
紗季:…ツンデレ。…なるほど。何となく分かった気がする。てゆうか、そんな警戒心の強そうな子、よくそこまで落としたね。
蒼:落としたって!何かやらしい言い方!
紗季:ははっごめん。でも、本当に。よくそこまで距離縮められたね。
蒼:まぁ、結構強引にいったといえば、いったかなぁ。俺も、まさかあっちが折れるとは思わなかったから、びびったけど。同じクラスの奴で、ずっと気になってたんだよね。
紗季:…へぇー??(にやにや)
蒼:え、何、その顔。にたにたしてる。気持ち悪いよ、紗季さん。
紗季:いやいやー?別にー?青春だなーって思って。いいねぇー。
蒼:何かその発言、おばさ……っ
紗季:んんー?(見えるように拳を握る)
蒼:ごほんっっ!何でもありません!
紗季:よろしい。
蒼:こっわー紗季さん、こっわー。
紗季:若者の教育も、大人の役目ですからね!
蒼:ひえー。気をつけまーす。
紗季:まったくだ!気をつけたまえ!
蒼:何キャラなのそれ。
紗季:さぁね!
蒼:紗季さんも相変わらずだね。
紗季:どういう事だ。それは。
蒼:元気だねって事!
紗季:まぁ、それだけが取り柄だからねー。てゆうかさ、今度その子も一緒にお店に連れておいでよ。蒼くんがそんなに惹かれてる子なんて、ちょっと気になる。
蒼:まーた、そのにたにた顔。……まぁ、機会あれば俺も、連れて行きたいって思ってはいるんだけどねー。俺も紗季さんの店好きだから、あいつにも紹介したいし。
紗季:嬉しいこと、言ってくれるじゃん。
蒼:何度かさ、お店の話もしてるんだけど。なーんか、あんま食いつきよくなくて。まぁ、基本そういう奴なんだけど。
紗季:ふーん。…まあ、警戒心の強そうな子だもんね。だからこそ気になるんだよなー。蒼くんが落とした、お・と・も・だ・ち!
蒼:いやだから、落としたって。
紗季:何か、私の幼馴染と少し似てる気がして。あーいや、でも、私の幼馴染は警戒心が強いって言うより、人見知りって感じだから、ちょっと違うけど。
蒼:へぇ?紗季さん、幼馴染いるんだ?
紗季:うん。お店にもほぼ毎日、買い物に来るよ。どっか抜けてて、危なっかしくて放っておけなくてさ。気がついたら、20年以上もう一緒に居る。
蒼:20年以上?!すっげー!!
紗季:おお、急に目が輝き出したな。何だ何だ、どうした?
蒼:いや!幼馴染とかって、俺いないからさ!どんな感じなのか、ちょっと興味があって!
紗季:どんな感じって。別に特別な事は何も無いよ。腐れ縁っていうか。んーー、昔からずっと一緒に居るから、家族に近い存在って感じかな。あっちは私の事好き好きって言って、ずっとついて回ってるから、いい加減、私離れしなさいって、ちょっと心配なんだよね。
蒼:へええ。紗季さんモテモテじゃん。
紗季:いや、別にモテてはいないな?
蒼:実は俺の学校でも、紗季さん結構人気者だよ?あそこの洋菓子店のお姉さん、いいよなって。
紗季:うーそ。本当に?私もまだまだ捨てたもんじゃないな。若い子達にモテるなんて。
蒼:ま、面倒見よさそうだしねー。
紗季:そういう君も、モテそうだけどねぇ?
蒼:いやー。俺は全然。そんなモテないし、気になってる奴を振り向かすのも、一苦労だよ。
紗季:へぇー。…さっき言ってた、お友達?
蒼:……んー。まぁ、そう。
紗季:ほほーん?
蒼:その、にたにた顔。何か腹立つから辞めてくんない?
紗季:ごめんごめん。青春の香りに酔っちゃって。
蒼:いやだから、その発言はおば……、何でもありません。
紗季:……ま、そういうのって、なかなか難しい事もあるよね。人生そう簡単にはいかないものだよ、青年よ。
蒼:さっきから紗季さん、ちょいちょい変なキャラになってるけど、どうしたの?
紗季:どうもしてないよ。
蒼:……そっすか。
紗季:うん。
蒼:…ま、いいや。…んーーー…。簡単には上手くいかないもんだーっていうのは、まあ、分かるんだけどさ。なんて言うか、上手くいかな過ぎて、こうなんか、気持ちが先走って、変なこと言っちゃったりもして…自分でも驚いたりする事ってあるよね。
紗季:あー…。まぁ、確かに。あるね、そういう事。
蒼:…俺さ。本当にその友達の事、何か自分でもよく分からないけど、めっちゃ気になってて。でも、さっきも言ったけど、そいつはかなりの人間嫌いで。とにかく人と関わろうとしない奴でさ。それでも俺はなんとか仲良くなりたくて、必死になってたんだけど、無視されるし、全く興味を持ってもらえないしで。
紗季:それは…辛いね。
蒼:そう。んで、流石にちょっと腹がたって。何か、こう…話の流れでさ、「人間が駄目なら、お前が好きな猫になって傍に居たい。」とか、言っちゃったんだよね。
紗季:………猫……。
蒼:自分でも何であの時、あんな事を言ったのかよく分からなくてさ。…でも、ま、それのお陰で、友達認定はしてもらえたから、結果オーライって感じなんだけど。
紗季:………。
蒼:……?紗季さん?どうしたの?急に黙り込んで。
紗季:…………いや、さ。ちょっと、びっくりしてる、というか。
蒼:びっくり?何に?
紗季:……いや。えーっと。こんな事、君に話していいものか悩むんだけど。
蒼:うん?
紗季:……似たような事をさ、少し前に私も言われたからさ。その………。猫になって、私の傍に居たいって。
蒼:え?まじで?
紗季:うん。だからちょっと驚いちゃって。
蒼:ええー。何その偶然。なんか凄いね。俺もそれはびっくり。
紗季:だよね。ちょっとびっくりするよね。
蒼:うん。………それってさ、誰に言われたとか、聞いてもいい?
紗季:あーーー…。まぁ、別に。……さっき話した、幼馴染からなんだけどね。
蒼:…幼馴染。
紗季:うん。いやでも、私も相手も結構お酒飲んでて、酔っ払ってたからね。そのせいもあるとは思うんだけど。にしても、まさか蒼くんも同じような事言ってるとは思わなかったから、びっくりだよ。
蒼:そうだね。
紗季:ねー。
蒼:………紗季さんはさ、
紗季:ん?
蒼:それを言われた時、何て答えたの?
紗季:…え。
蒼:あ、いや。言いたくなかったら別に答えなくていいけど。
紗季:いや、うん。大丈夫だよ。…なんて言うか、さっきも話したけど、私とその子って、もう昔からずっと一緒に居るからさ。だから、別に猫にならなくても、もうずっと一緒にいるじゃんって思って。その子が何を意図して言ってきたのか、よく分からなくて。
蒼:あーー。まぁ…そうだよね。
紗季:うん。だからそのまま。人間だろうと猫だろうと、変わらないよって答えたかな。確か。
蒼:…そっか。
紗季:うん。………あのさ、私からも1つ聞いてもいい?
蒼:何?
紗季:……蒼くんはさ、どういう気持ちで、そのお友達にそれを言ったの?
蒼:………。
紗季:あ、 勿論、答えたくなかったら言わなくていいけど。
蒼:いや、俺も紗季さんの話聞いたし。紗季さんになら別にいいよ。……って言っても、正直、自分でもまだよく分かってなくて、上手くは言えねぇんだけど。
紗季:いいよ、全然。
蒼:…うん。俺は、全くこっちを見てくれない友達を見てて、俺の事をちゃんと見て欲しいって思ったから、言ったかな。
紗季:見て欲しい…。
蒼:うん。これがどういう気持ちなのかとかは、まだよく分からないけど。でも、こっちを見ろって気持ちが強くなって。んで、気がついたら何かそんな事言ってた。相手が好きだって言ってた猫に、俺はなりたいって。そしたら、ちゃんと見てくれんのかなって思って。
紗季:…そっか。
蒼:うん。……俺はさ、その紗季さんの幼馴染では無いし、よくは分からないけど、でも1つ思ったのは、紗季さんにそう言ってきたその人も、紗季さんの事めっちゃ好きなんだろうね。
紗季:………好き、か。
蒼:うん。多分きっと、そうなんじゃないかな。分からないけど。
紗季:………。
蒼:…紗季さんにとってさ、その人ってどんな存在?
紗季:どんな…。んー、そうだな。改めてそう聞かれちゃうと上手く言えないな。さっき言った通りで、ずっと一緒に居て、本当に家族みたいな存在でさ。それ以上でもそれ以下でも無いというか。……まぁ、とても大切な人っていうのは間違いないかな。
蒼:…へぇー。何かいいね。そういう関係も。
紗季:そうだね。心地のいい関係ではあるよ。多分お互いにね。だから、私はこのままの関係を続けていけたらいいな、とは思ってる。
蒼:ふーん。…すっごいさ、変なこと言うかもだけどさ。
紗季:うん?
蒼:…もし、その幼馴染から、告白とかされたら、紗季さんはどうする?
紗季:………何でそんなこと聞くの?
蒼:いや、なんとなく。何かその人、すっごい紗季さんの事、好きなんだろうなって思ったから。
紗季:……そっか。…んー。正直私は、今の関係がとっても心地よくて大切だから、これ以上の関係に進む気は無いかな。恋愛とかになってくると、色々と面倒くさい事になったりもするし。私にとってその子が大切な存在っていうのは、変わらないし。このままの関係が、私は幸せかなって思ってる。
蒼:……そっか。
紗季:うん。……蒼くんって、結構鋭い子だね。
蒼:え?そうかな?
紗季:うん。
蒼:どこが?
紗季:周りから言われたりしない?
蒼:いやー、あんま言われないかなー。気が利くとかはよく言われるけど。
紗季:気が利く人って、ある意味鋭い人とも言う気がするけどね。私は。
蒼:そうなのかな。
紗季:うん。…いや、私もさ、確証は持ててないし、何となく感じてることだから、本当の事はよく分からないんだけどさ。
蒼:うん?
紗季:…その幼馴染からの好意がね、多分、私が思っている「好き」とは違う意味なのかもしれないって、思う時があるんだ。
蒼:…そうなんだ。
紗季:うん。…本人から、はっきりと言われた訳では無いし、しょっちゅう私の顔を見ては好き好きって、昔から言ってくる子だから。いつもの事かって思うんだけど。でも…長いこと一緒に居て、いつからかな。何か、お互いの「好き」の中身がね、擦れ違ってる様に感じてきて。相手の言動とか見てるとね。
蒼:…そっか。
紗季:でも、もしそうだとしたら。…私はやっぱり、あの子のその気持ちには答えられないって思う…かな。…だから、今でも会う度に感じる、あの子からの「好き」の重みをさ、しっかりと受け止めることは出来なくて。でも私は、今の心地いい関係は守りたくって。あの子を大切にしたくて。……私からは離れて欲しくなくて。……だから、あの子の気持ちに気がついていないふりをして、昔と変わらない態度でずっといる。
蒼:……。
紗季:……けど、結構心苦しいって思うんだよね。もしかしたら、あの子はそんな私にも気がついていて、それでもその気持ちを持ち続けているのかもしれない、とか思うと余計にね。無駄に付き合いが長いから、なんとなく分かってきちゃうんだよねー。まー、憶測でしか無いんだけどさ。今のところは。
蒼:………難しいね。
紗季:そうだねー。本当に。……人生って、上手くいかないものなのだよ。
蒼:でた、謎キャラ。…でも確かに、なかなか上手くいかねーーよね。
紗季:ねー。って言っても、まだまだ人生これからだけどね!君も!私も!
蒼:それな!
紗季:ふふ。……いや、てか、色々話しすぎちゃったな。ごめんね。つまらなかったでしょ、こんな年の離れた奴のプライベートな話なんて。
蒼:いや、俺も聞きたくて聞いたし。紗季さんも色々悩んでるんだなって思ったら、何か嬉しくなった。
紗季:嬉しい?何で?
蒼:紗季さんも、俺と一緒なんだなって思ったと言うかさ!
紗季:ふーん?…よく分からないけど、まぁ、いいや!話聞いてくれてありがとう!何か、蒼くんって話しやすいから、ついつい、いつもお喋りしすぎちゃうんだよねー。
蒼:お店でもつい話し込んじゃって、店長さんに怒られたよね。この前。
紗季:あったねーそんな事。でも店長もさ、蒼くんが来るとめっちゃ喜んでさ、すんごい喋ってるじゃんって感じだけどね。
蒼:ははっ、確かにね!
紗季:あ、ここでお別れだよね。荷物ありがとー。重かったでしょ。
蒼:いや、全然。男子高校生を舐めないでよ。元気とパワーだけは有り余ってるから。
紗季:それはそれは、流石。若い力っていいですねー。
蒼:やっぱり、紗季さんおばさん…。
紗季:んー?なんか言ったー??
蒼:いいえ!何でもないです!!
紗季:今日は隙あらば、言いたがるなー?禁句って言ってるでしょー、その言葉は。
蒼:はーい。………ねぇねぇ、紗季さんはさ。
紗季:うん?
蒼:その幼馴染とか、俺が友達に言ったみたいなさ。…猫になれたら、傍に居たいと思う人って考えた時、思い浮かぶ人っている?
紗季:……それは。
蒼:俺はさ、やっぱりそれを考えたら、さっき話した友達がすぐに思い浮かぶんだよね。そいつの事考えると、胸の辺りが暖かくなったりもする。
紗季:…そっか。いいね。
蒼:うん。…それがどういう気持ちなのかは、俺もまだ探り途中って感じだけど。でもこの気持ちが、俺の素直な気持ちなんだって思ってる。
紗季:…素直な気持ち、か。
蒼:うん。…だから、紗季さんも。本当の自分の気持ち、見つかるといいね。
紗季:え?
蒼:いや…。さっきさ、紗季さん、幼馴染が自分から離れて欲しくはない。って言ってたから。なんか、色々な気持ちが、ごちゃごちゃっとしてるのかなって。
紗季:……なるほど。
蒼:なんて、子供の俺にはよく分からないけど!でも、紗季さんがその人を大切に思ってる気持ちは、相手にもちゃんと伝わってるだろうし。2人にとっていい答え?が、見つかるといいね!
紗季:……そうだね。
蒼:んじゃっまたね!お店にもまた行くから、よろしく!
紗季:うん!待ってるよ!気をつけて帰ってね。またね!
紗季(M):大きく手を振りながら、夕暮れに染まる空に走って消えていく。若い君は、素直な自分の気持ちをしっかりと受け止めて、駆け抜けていく。昔は私も、そうだったな、なんて思うと、また「おばさん発言」と言う君の顔が思い浮かぶ。
大人になればなるほどに、相手の気持ちや自分の気持ちですらも、素直に受け止めていくことが難しくなっていく。人間って不器用な生き物だと思う。
それでも葛藤をしながら、素直な自分の気持ちを受け止めて、それを真っ直ぐと伝えられる蒼くんが、とても眩しく見えた。
大人になった私達は、彼の様になれるだろうか。
きっとそれは、とても勇気のいることだ。
それくらい私も…、私の幼馴染の…雪も、大人になってしまったのだと思う。
雪に私離れをしろと簡単に言えるのは、あの子が私から簡単に離れていかないと知っているから。雪の好意をなんとなく察しているから。あの子の幸せを願いながらも私は結局、自分のエゴであの子を縛り付けている。それでも雪は、私を好きだと言い続けてくれる。
あの子は私に、安心をくれる。「私の意思で、貴方から離れる事は無いよ。」と。そう言われる度に、どこかで安心している私もいるのだ。同時に、ずるい子だなとも思う。
けれどもそれは、私も一緒。
本当に私達は、
紗季:ずるい大人に、なっちゃったもんだよね…。
紗季(M):「猫になれたら、傍に居たいと思う人って考えた時、思い浮かぶ人はいる?」眩しい笑顔で問いかけてきた君からの言葉は、大人の私に深く突き刺さり続ける。眩しい光と共に。
猫になれたとしたら。私は…、誰の傍に居たいと思うのだろう。蒼くんに問い掛けられた時に一瞬、その顔が見えた気がしたけど、まだその顔は靄(もや)が掛かって上手く見えなかった。というか、自分で見ないようにした気がする。
素直になる事が、私も怖いのかもしれない。
大人はこんな事ばかりだ。
素直な気持ちをしっかりと握りしめられる君が、とても羨ましいと思う。
[END]
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【作品掲載HP】
『^. .^{とある猫の言葉.•♬』
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