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猫田による猫田のための、月。

昔の偉い作家先生が、
"I love you"を『月がきれいですね』って、
言ってしまったせいで私は、
軽率にきれいな月を褒めることができなくなった。
不当な言葉の制限だ。

今日は半分月が出ている。
上弦だったか下弦だったか、
どっちがどっちか、
ついに覚えることができなかった。

調べたら分かるだろうけれど、
結局覚えられないのだから、
今調べることに意味はないのだ。

今日は冬。
外の空気はひんやりとしている。
冷たいかぜが頬の端を撫でて去っていく。

真っ黒で暖かみのない冷たい夜の空の上から、
ほとんど白い半月がまっすぐ私を見下ろしている。

夜の月はきれいだ。

それはそれとして、
青空にうっすら霞のようになった、
青白い月が好き。

青白い月はたいていほっそりとしていて、
切った後の爪のように、
研ぎ澄まされた鎌のように、
鋭利に尖っている。

いつか刺し殺されるなら、
あの青白い月に刺されて終わりたい。

きっと痛みもなく、
考える余裕もなく、
天に召されて終われるだろうな。

しかしそんな都合の良いことはない。
月はだだ高い空の向こうにあるだけ。
私個人に語りかけてくるわけもなく、
だだ見下ろしているだけ。

だから適当な妄想を並べ連ねて、
勝手に満足して私は、
なにも変わらぬ生活を続けていくのです。

月がきれいですね。
大きなだいだいいろの満月が
登った空をぼんやり見ながら、
月見酒をするのはどうだろう。

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