猫とサクラの花びら
ここ数日、窓から見える景色が変わった。
ここからよく見える木に花がいっぱい咲いたからだ。
母さんによるとその木は桜の木といって温かくなってくると一気に花が咲くらしい。
そう言えば前の春もそうだったね。
桜の木はその家の屋根よりも高く大きく枝を伸ばしているのだけど、その家自体は誰も住んでいないそうだ。
長年そこで暮らしていたお婆さんは亡くなってしまってそれから桜はずっと人間の世話を受けずそこにいる。
それでも春になれば花を咲かし、夏になれば青々とした葉っぱで日陰をつくる。
秋には葉が落ちて冬には丸裸になるのだけど次の春にはまた花が咲く。
僕はそれをただ見ている。
でも、桜の木って不思議だねぇ。
あの木をじっと見てるとね、ときどき面白いものが見えるんだ。
昨日は散ってゆく花びらの上に乗って滑空している小さな人間を見たよ。
ああいうのボーダーっていうの?
前にテレビで観たよ。
その小さな人間は楽しそうに笑いながらくるくると花びらの上で踊っていた。
〜はい、猫はいろんなものが見えるんです。
しばらくしてそいつも僕の視線に気付いたみたいで目の前に来てフワリと風に乗り華麗なジャンプを決めた。 ワォ〜!
僕が感心しているとその小さな人間は花びらから花びらにぴょんぴょん飛び移ってどこかに行ってしまった。