【日記】22歳、インスタント中学生体験

 この前の土曜日、地元でバーベキューをやると声がかかったので私も参加した。しかもただのバーベキューではなくて、中学3年の頃のクラスの同窓会を兼ねていて、当時の担任の先生も参加していた。
 1ヶ月以上前から声がかかっていたから、割と長い間この日を楽しみにしていたし、およそ成人式ぶりくらいに会う面子に緊張もあった。

 公園や海でやるのではなく、商業施設の屋上をバーベキュー場として解放しているもので、その一角を借りて集まった。
 駅に近い商業施設なので「屋上BBQ」と謳う垂れ幕はよく見かけて気になっていたけど、屋上の中央部分に大きめの簡易屋根がずらっと並び、そこに折りたたみの椅子と机が並んでいる以外、いつか学校で見た屋上と何も変わらなかった。フェンスで囲われた無機質な室外機。屋上以外のなんでもなかったところに、インスタントバーベキュー場ができた、みたいな感じ。そりゃそうか。でもその感じにがっかりした訳ではなくて、親戚で家の屋上に集まってやるバーベキューみたいな日常味があるのがまた良かった気がする。

 中学の時、朝起きるのが苦手で(今思うと起立性調整障害だった)学校に来られなくて、家まで何度か起こしに行った友人Mがいた。彼女とはインスタグラムで繋がっていたから、よくストーリー投稿でも見かけていて、今では料理人として働いているらしいということは知っていたけど、起きられない彼女しか私は知らなかったから、どうしているのかと気になっていたところだった。そんなMと、実に7年ぶりに会話した。
 彼女は驚くほど普通の社会人として、仕事に従事していた。もちろん起きられないなんてことは、今はもうないらしい。なんならホテルの食事を用意するために、朝は3時台に起きて仕事へ向かうことさえあるらしい。
 あの頃は中学生ながら、この子は将来どうなってしまうのか・・・と他の友人とも心配したりしていたな、と思い出す。でも今や彼女は社会人3年目で、私は留年明けのフリーター。こういうこともあるわけだ。それにしても、心配なんて必要なかったんだと思えるほどMがのほほんと生きていて、そしてまたそんな話ができる日が来て良かったな、と思った。思い出すと泣きそうだ。

 そんなMと隣で、向かい側には今でも日常的に連絡を取り趣味の話をしている親友のTが座って、私は一番隅の席に座った。中学で1番仲の良かった女子3人組がいたけど、その子たちと端どうしになって、真反対に座った。というのも、私の親が外出や飲酒について厳しいことに気を遣って最近の集まりに誘われなくなってから、少し気まずくなっていた。今回はその子たちと顔を合わせるのに一番緊張したかもしれない。
 だからと言ってタイマンをはりに来た訳でもないし、みんなで楽しむために来た訳だから会話はするつもりでいたけど、少ししてドリンクバーを待っているときに普通に話しかけられた。開口一番「アンタに会うために来たよ」と言われて調子いい奴だなと思ったけど、そういう調子のいいところがカワイイ奴だから、相変わらずだなあと思い笑った。

 そんないろんな思い出と人間関係があるところに飛び込む訳だから、私はその日やっぱり山口はこう変わったなぁ〜とか思われたくて、つまり大人びて見られてくて、服装とか、喋ることとか、髪型とか、色々想像していた。だって中学の頃といえば、山口は「うるさい」「やかましい」「品がない」みたいなことを言われ続けてきたから、悔しかったのだ。しかも、そんなに変わったことをした心当たりもないのに。(当時の私は声が大きくて、よく通ったのだ)おしゃれして、メイクして、髪も綺麗にして、ピアスもして、全然変わった山口をお見せしたかった。というか、大学で品がないとか言われたことがなくて、つまり本質的に山口は変わったはずで、それを伝えたかった。

はずだった。

 起きられなかった料理人Mと、親友のTと、その近くに座る数人、担任とで焼き鳥を焼きながら、思い出話に花を咲かせていた頃だった。パン!と大きな音が近くでして振り返る。どこで音がしたのかも分からなくて、近くの団体が何かプラスチック製のものを落としてしまったのだと思った。そんな音だった。
 私たちのクラス全員が振り返り、私も何事かわかっていなかったけど、少しして誰かが「あれが落ちてきたんだわ」と指をさした。それは私のちょうど頭上から雨水の溜まった白いボウルが落ちてきた音だった。「うわっ!」と声が出た。おろしたばかりのズボンの裾から膝にかけてびしょびしょになってしまったのだ。
 別に汚れた訳でもなく、あまり気にしていなかったのだけど、スタッフのお兄さんが駆け寄ってきて「すみません!大丈夫でしたか?」と聞かれ、「大丈夫です!全然!」と元気にいうと続けて「ポッキンアイスかスモアセット、どっちがいいですか?」と言われ、思わぬ提案に「ええ〜っ!!」と自分でも想像していなかったような大きなリアクションをしてしまった。
 0.1秒後、自分のあまりにも大きくてほとんど奇声のような声量とリアクションに自分でも驚いたし、がっかりした。「やっぱり、私中学生のまんまじゃん」と。そしてみんなにも、そう思われたような気がして。びしょびしょになったことも、お兄さんに「大丈夫です!」と空元気で勢いの返事をしたことにも一緒に嫌気がさしてきて、沈んでしまった。隣のMが「私も濡れた、日向ぼっこしに行こうよ」と日向に連れ出してくれたけど、気持ちは影の中だった。

 しばらくして焼き鳥を食べようと席に戻り、もう沈んでいたことも忘れるくらいになる頃、私はまたオーバーリアクションをしていた。最近こんなに大きい声で反応するのは久しぶりな感じがして、なんだか面白い気さえしてきた。そして最後まで、私は大きい声で話したし、反応もしたし、写真に映る時もちょっとふざけてポーズしたし、「下品」だったかも、しれない。(認めたくはない)

 そして2日経ったけど、今になって思う。あれは何も変わってないんじゃない。担任の先生に留年した話をしたら「相変わらずだね〜」とニヤニヤされて、やっぱり私は変わってない、と思い込んでいたけど、そうじゃない。
 あの場所には中学生の頃のメンバーが集まっていて、中学の頃の私が呼び戻されていたんだ。あのバーベキューの時あそこにいた私は、中学生の私だったんだ。と。

 なんか、高校に久しぶりに行った時にも同じような感想を持ってしまって気がして、自分の感受性の乏しさを痛感するけど、やっぱりそんな気持ちになってしまう。思い出すというより、なつかしいというより、そのままその頃の私が生ものとして残っている感じ。感覚がそのままの形で戻ってきて、温かくなっている訳でも、冷たくなっている訳でもなくて、そのままの温度で再生されるような感じ。

 実際見た目も、中身も変わっただろう。流石に7、8年経った。年齢も骨格も違う。制服か体操服を着て髪もボサボサだったんだから、そりゃああの時よりは絶対おしゃれに、綺麗になったはずだ。だけどまだ私の中に中学生が生きてるから、いつでも再生できちゃうんだな。って感じ。
 お湯を入れたら出来上がるみたいに、そのきっかけはちょっとしたこと。中学のみんなに会って、すぐに帰ってきた。でかい声で喋る私が。

そんな、インスタント中学生を呼び戻した1日だった。


三日月



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