私の常識、世間の…
私が当たり前だと思っていることが相手にとってはとんでもないことであったり、また相手が当たり前だと思っていることに私が「なんだかなあ」と首をひねったり。どうもこの世には万国共通、誰もがみな同じように物事を捉える、考える、なんてことはないようです。とくに世界を旅していると風土も民族も言葉すら異なる者どうしの交流がほとんどなので、驚いたり、落胆したりの連続です。
たいては
「ほほう、そういう考え方があるかぁ」
と達観しているのですが、たまぁに、まともな理論もなく自分の思い込みを押し付けてくる輩というのもあります。
そんなときは
「クックック……」
と心の中でこらえ笑い(無理押ししている相手は本人の考えを妄信しているので)。
他人の狭量は私のネタ。
いただき!とばかりに、記事にするしだいでございます。
さて本日のネタは、久方ぶりに日本へ戻ってきたときのお話。
日本はそのむかし東の端、極東と呼ばれていたとおり、ヨーロッパからはそれはそれは遠い国でございます。そこへ持ってきて、「うちの庭」ならぬ、「うちの空は通っちゃなんねえ。通った暁には撃ち落とす」なんて物騒なお国がございまして、飛行機は迂回ルートを飛ぶしかなく、13時間という長い飛行時間となっております。
まあ、なんだかんだありつつも日本の空港へ無事に降り立ち、「病気の子はいねえか、悪い子はいねえか」と、こっちの係、あっちの係と空港施設内を二周したんじゃないかというぐらい、ぐるぐる、ぐるぐる誘導に従って歩き回り、念入りなお取り調べをいただいたのち、最後の関門、税関検査までやってきました。
ここではパスポートを見せ、どこでなにをしていたのかといった類の質問にサクサク答え、書類の不備等がなければ、通過、となりますが、幸か不幸か、抜き打ちで荷物を調べられることもあります。
今回の私の荷物はチェストバッグと小さな紙袋のみ。着衣はフリースシャツとトレーニングパンツ、そして足元にはサンダル。
私的には丸腰、人畜無害、安全そのもの♡
ここはすんなり通過できるものだと思っていました。
ところが!
まず係員にどちらからですかと訊ねられたので、
「スペインです」と、ここはさらりと答える。
係員「ご旅行ですか?それともビジネスですか?」
私、そこでほんの一瞬考える。
この質問、どこの国の空港でも訊ねられるのですが、私の場合は旅と言い切っていいのか、それとも仕事なのか?いつも答える前に迷いが生じます。けれども結局は
「旅行です」と答えます。
係員「どれぐらい滞在されましたか?」
私「三ヶ月」
係員「荷物はこれ……だけですか?」
係員と私の間にある台にちょこんと載った紙袋ひとつ。それを見下ろし、目が点、あるいはおやおや?といった様子。
私「はい、スペインに家があるので」
係員「そちらにお住まいなんですか?」
私「いや、住んでないです」
係員「?」
私「これまでずっとあちこち旅をしていたんですけど、今回そっちに拠点のようなものができたので、これからちょくちょく利用するかな、って感じで……」
ここまでまったく噓、偽りなく、私の思い、生活スタイル、さらには今後の予定まで、包み隠さずお聞かせしたのですが、どうも係員の脳裏に黄色信号を点灯させちゃった模様。何を血迷ったのかその係員、奥から一冊のファイルを持ってきて私に見せはじめました。
係員「こういったものを所持していませんか?」
そのファイルには、イケない葉っぱや薬の写真がおさめられており、どうやら私、不審人物と判断されたようです。
ほんと、マジでそういう類のものに興味もないし、ついでに言うなら、知らない人にわけの分からん荷物を預けられたためしもない。その旨をあほらしい気分で答えましたが、それでも疑いは晴れず、めでたく、ボディーチェ―――ーック!ということになりました。
本人は微塵も怪しいところはない、と信じておりましたが、相手はお仕事です。気が済むまでどうぞご自由におやんなさいという気持ちで指示に従いました。
女性係員が私の前に呼ばれ、これまた念入りに、そこまで!?ってぐらいに全身お触り。さらには椅子に腰かけるように言われ、足の裏まで撫でるように、そのままツボ押してくれんかな?というぐらい、チェック、チェック。
こうして身体検査は無事終了。潔白は証明されたようで、さあ、出口…と思っていたら、その係員から再びお伺いが。
係員「あの、この中をチェックしてもよろしいですか?」
見下ろしているのは、私の唯一の手荷物、小さな紙袋。中を改めるもなにも、カバーもなく、覗けば底まで見通せるような大きさです。
私「ほんま大したもの入ってませんよ」
なにもなさすぎて、ここから鳩でも出してあげたいぐらい。
それでも、真面目な様子で歯磨きセットと充電用のコードと機内で食べ残したバナナとチョコレート菓子しか入っていない紙袋の中を調べる姿に
「母さん、日本の玄関はしっかり守られていますよ!」
と叫びたくなりました。
係員「はい、結構です。ご協力ありがとうございました」
私「ありがとうございました」
最後は丁寧な言葉づかいで送り出していただき、今度こそ、本当に空港を出ることができました。
税関検査は抜き打ちなので、たまたま私が当たっただけだとは思うのですが、ひょっとして、この身軽さがいけなかったのかしら?……なんてことを疑いつつ、猛烈に誰かに語って聞かせたい!と笑いがこみ上げてしようがない、不審者でした。
だから不審やないって!
山上美香