それでも、歩き続けられた理由
2000㎞の巡礼路もあと残り300㎞というところで、心がくじけた私。うすら寒い部屋の中でひとしきり感情を吐き出したあと、気分転換にバルへ出かけ、ワインを飲みながらレストランが開くのを待つことにした。
暖かい店内で陽気なイタリア人たちの雰囲気に浸っているうち、気持ちが和んできて、いつもの笑顔を取り戻すことができた。
待ちに待った夕食は、私の大空腹を先読みしていたかのようにどれも大盛りで味もよく、十二分に満たされた。
食事を終えて外へ出ると、雨が再び降りはじめていた。店の玄関でしばらく雨宿りを試みたが、どうも止みそうにない。仕方なくレインコートをしっかりと羽織り、肩を丸めながら小走りで宿へ戻った。幸いなことに、部屋には暖房が入っていて、凍えることもなく眠りに就くことができた。
翌朝、目が覚めると雨はすっかり上がっていた。
私はベッドから起き上がると、これまでしてきたのと変わらず身支度を整え、再びVFの目印を辿って歩きはじめる。
それが昨日、自分に投げかけた問いの答えだった。
湿り気を帯びた空気は、ピリリと引き締まったように冷たい。道端に生える草木が雨だれを結んでいて、時折、陽ざしを浴びてキラキラと輝く。
嵐のあとだからこそ感じられる美しい景色。その中に身を置いて昨日のことを振り返ってみれば、「よく頑張った」と自分を褒めたくなる。
長い巡礼路を歩き続けることに心の底から嫌気がさしたけれど、それまでの苦労を労ってくれるのもまた、その巡礼路なのだ。
雨のあとの土道は時々ぬかるんでいて、歩くのにひと苦労だけれど、空の色を映した水たまりは、まるで天に続くようだった。