見出し画像

書けん日記:31 貧乏脱出めし - バイ貝のエスカルゴ風

貧乏めし脱出企画、エスカルゴを食べてみよう!

……は、脱出できたんだか、できなかったよ……だか、わからん結果となってしまいまして。
そのさいに、

T氏「エスカルゴってソースが美味いだけなんじゃね」
不肖「その可能性もありますね……おフランスのエスカルゴバターソースは絶品、サイゼリヤのエスカルゴの、ガーリックとオリーブオイルのソースも実家のような安心感でうまし、で……かんじんの、エスカルゴの身のお味は……うん」
T氏「タコみたいな味、と申しておったの」
不肖「冷凍、解凍にしっぱいして歯ごたえなくなったタコと申しますか。予想していた、巻き貝系の味ではなかったですねえ」
T氏「言うたやろ。同じお値段で、貝柱かじったほうが美味いって」
不肖「……あっそうだ(唐突)。エスカルゴバターで、サザエとかつぶ貝とかの巻き貝を料理して食べたら最強なのでは?」
T氏「醤油でいい気がするんだけどなあ」
不肖「たしカニ。エスカルゴはソースだけでも 高え~~~(バッバッ) でしたねえ……」
T氏「こないだ買ったやつの材料表記だと、バター、ガーリック、パセリ、シャロット、香辛料、だっけな。三河の野っ原そこらへんに生えてるもので自作して日記書いとけ」
不肖「何気ない海育ちの一言が、家康公の頃からあるうちの畑を傷つけた――」

無ければ作る。高ければ代用する。
料理という文化の、ひとつの側面――それを試し、実証し、そして。
作ったそれが美味しければ、私の脱出計画は成るのでは? いままでさんざん欧州の豪奢やごちそうを書き散らしてきた私も、童貞の書くセッ()マニュアルから脱却できるのでは?
――かくして不肖は、買い出しにでかけた次第。

いつもの「とり天弁当」のお店にて

ありましたよ。いつものスーパーの鮮魚コーナー。
小ぶりですが、まだ活きのいいバイ貝。100gあたり280円。
これをエスカルゴ風に調理すれば、わたしたちに馴染みのある貝の美味しさにエスカルゴバター風味がそなわり最強に見える……ジッサイオイシイ、はず。

では、調理開始です――

まずは、バイ貝を水洗いして汚れやぬめりを取ったあと……下茹で。
中身に火が通ったあたりで湯から貝を上げて、氷水で冷やして粗熱を取ってから身を取り出す。熱が通っているので、竹串を突っ込んで くるん とやればキレイに取れ……ワタがちぎれてしまいました……。
こうして、中身だけを取り出したものがこちら。

もうこの時点で美味しそう

……うん。サイズ比較のつまようじと比べても身は小さい……そして秤に載せてみれば、中身は50グラムほど。
不肖「……コストコのプレミアムビーフよりも単価が高いのですがそれは」
T氏「貝はこんなもんじゃろ。だから貝柱を買()」
……少し、貧乏脱出への意欲に陰りが見えてしまいましたが――
うん、取り出した身は美味しそうですね。エスカルゴのドス黒さと違って、おなじみの貝の色。そしてふんわり漂う磯の香り。これは期待ができそう。

そして……漁村育ちのT氏より忠告。
T氏「つぶ貝やらバイ貝には毒線があるらしいな。地元じゃ丸ごと食ってたが」
不肖「なにそれこわい。やっぱり、ふぐとか、海の生き物は油断がなりませんね」
T氏に送ってもらった動画を参考に、茹でたバイ貝の身を包丁で割って……毒線を取り出……。

不肖「それらしきものが見当たらないのですが、それは」
T氏「動画だと、その管みたいなのの付け根あたりの中にあるっぽいぞ」

つまようじの頭の先にあるやつがそれっぽい?

……なるほど、ありました。小さいですが、このクリーム色の器官がそれかな、と。
不肖、あたるのが怖いので小さな貝の身をひとつづつ割って、ちまちまと唾液腺と呼ばれる毒の部分を取り去り……。
不肖「……貝料理が高い理由がわかりましたよ」
T氏「刺し身だと、もっとめんどうだぞ」
――下ごしらえ、完了。次は、ようやく調理に入る。

まずは、こぶりなスキレットにバター、芽を取ったにんにく。焦げないように少しオリーブオイル。そしてここに……エスカルゴバター要素を投入。
まずは、うちの庭に自生しているイタリアンパセリ。いつもはスズメたちの遊び場になってるそこから、一房とって、香り付けに投入。
そして。シャロットのかわりに、愛知の名産、豊川ネギの青いところを入れて、これも香り付け。
そこに、味付けの塩を入れて……シンプルに加熱。

鉄フライパンの使い所

バターが溶けて煮えてきたあたりで、焦げる前にネギとパセリを取り出して、そのオイルソースの中にバイ貝の身を投入。ゆっくりと加熱する。
……おおお。なんか、うちの台所には似つかわしくないいい香りが。
こうして――

できました。エスカルゴ風バイ貝のソース煮。

前回のエスカルゴよりはボリュームが……あるっ

……うん。おフランス産のソースには及びませんが、バターの風味にのった、にんにくとパセリのいい香り。うん、これこれ。
見た目は、ちょっと残念になってしまいましたが……味が良ければ、それでよし。ということで、実食――

……。……あー。うん、やっぱり。
おフランスさん、ごめんなさい。やっぱり、エスカルゴよりバイ貝のほうが美味しくないですかね? それは私が海産物食べ慣れたアジアじんだからというのもあるかもしれませんが――

バイ貝のソース煮、手前味噌ですが……美味しいです。はい。
このバイ貝の、食べ慣れた海産物の風味とうま味。そこに、ガーリックとパセリの風味を絡めたバター。ネギもしっかりと、貝の身を噛むと鼻にふわっと鮮烈な香りが抜けて、大正解。
……うん、うまい。うまい。脱出成功だな、これは……と。
むしゃむしゃ、あっというまに完食。ごちそうさまでした。
――そして……。食べ終わって、思い知るのが。

おフランス産エスカルゴのソース、超うめえええEEE。
サイゼリヤのエスカルゴの、実家のような安心感のあるソースも、でらうめえええEEE.
……でした。
やはり、プロはひと味もふた味も違いますね。……と、しごく当然のことを思い知った、貧乏脱出めしの晩餐の夜でありました。

そして――
バイ貝をワインとともに楽しみ、残ったソースでパンをむしゃむしゃ食べた不肖は。
日記の続報、脱出貧乏めし企画の決着編を書くために、情報を、足場がためのための。エスカルゴの情報をあらためて、書籍や、ネットの海で調べ……エスカルゴと、人類の食の歴史を……。

……ほうほう、なるほど。

欧州では、先史時代から食べられていたエスカルゴ。
古代ローマ人にも食材として愛されたエスカルゴ。うん、なるほど。ウナギやマグロを、現代の日本とほぼ同じ食べ方をしていたローマ人が愛好していたなら、エスカルゴの美味さとゴージャスさは本物ですね。
うん、なるほど。西欧史では、親の顔より見た流れで――
西ローマ帝国の崩壊後、ヨーロッパが活気あふれる暗黒の中世に突入すると。エスカルゴは、教会から不浄なものとしてバッシング。
エスカルゴは、農民や貧しい人々の救荒食物、そして保存食へ。さらに、定期的に肉食が禁止されるキリスト教のもとでは、貴重なタンパク源として食の命脈を繋いだ……と。
そして。19世紀。ナポレオンの時代。
これ以降の近代欧州史をかじっていると『またおまえかー』と。MMRのノストラダムスさん並みにいろいろなところにその顔、名前を見かける、フランスの政治家タレーラン。
そのタレーランさんが、エスカルゴを再び高級料として復活させ、現代に至る……と。

……んっ? ん? ということは――

不肖「すみませんちょっといいですか? 私はおフランスに傾きつつある、イタリアかぶれの旅行者なのですが――」
T氏「やかましい。日間賀島以外で本州出たことねえヤツがどのツラ下げて」
不肖「ししし失敬な、瀬戸大橋渡ったことあるもん! ……それはさておき。エスカルゴも、昔は庶民、肉の食えない貧民の食べていたのがいつの間にやら高級料理に、って――」
T氏「ほーん。まあ、そういうの、いっぱいあるよな」
不肖「私は、貧乏脱出めしを満喫していたはずなのですが――もしかして……エスカルゴ=貧乏めし企画、まだ続いていた、続いている可能性が微粒子レベルで存在する……? 私は貧乏めししか食べられない、逃れられぬカルマ?」
T氏「はい。微粒子どころか惑星レベルで」
不肖「ウワァアアアアアン」
T氏「脱出したければ――ここで、やることはひとつだ。はよ書け。今度はエロいやつな」
不肖「やっぱりぃいいい 最近、可能性の獣に噛み癖が…… がんばります」


もしよろしければサポートなどお願いいたします……!頂いたサポートは書けんときの起爆薬、牛丼やおにぎりにさせて頂き、奮起してお仕事を頑張る励みとさせて頂きます……!!