書けん日記:19 ケーキ……
年の瀬も押し迫った某日。いつもの打ち合わせで――
不肖「先行して提出いたしました、例のシーンなのですが……」
T氏「内容はいいとして。どうして、ここでこの川が出てくるんだ?」
不肖「エッ。だって、こっちからあっちに移動するときには……」
T氏「このストーリーだと移動経路こうなるって、地図描いてやったじゃねえか、先々月」
不肖「……。……アッ」
T氏「10何年このお話書いてんのに、どうしていまだにあのへんの位置関係が頭に入っていないのかと」
不肖「すみませんすみません……。あれえ、おかしいなあ」
T氏「おかしいのはお前の()」
また、やらかしてしまいました デデドン
慣れた舞台、慣れた役者たち、いつもの――
……な、はずなのに。凡ミスどころか、小学生の「社会」のレベルの地理のミスを、未だにやってしまうこの不肖……。これを皆様に、お客様にお出ししている――毎度、校正を入れて頂いて、お叱りの合間合間に書くような有り様の不肖です……物書き歴三十年余です……。
今回の地理ミスは、そもそも。それが発生した理由が自分でもわかっているのが情けない。その理由とは――
それなりのサイズ、テキスト量、シーン数が多い大きめのテキストお仕事。
シーンの冒頭から、ふつーに書き進めていけば何の問題もない、起承転結を物語の流れ通りにテキストで型に流し込んで固めて蒸し上げてお出しすればよろしい。……だが。
だが、毎回それができれば苦労はしねえ――という書けん作家の泣き言。
シーンのいくつか、登場人物の配置などが、未確定、混迷のまま。
だが迫るスケジュール、ぶっちしてしまって致命傷になりつつある締め切り。
――しかし不肖は書かねばならぬ たとひ芝居の背景がまだ未完成でも。
(その又背景の裏を見れば、使いまわした書割がぼろぼろでしかも今更ま間違いが見つかってアアアアン。アン!)――
と、芥川先生に不敬な「河童」の悪質な改ざんをしている場合でもなく、書かなくてはならない。
その場合――長いお話に手をつける場合に、よくある技法のひとつに。
創作、テキスト書きのテクニック。書けん不調の克服、その誤魔化しに
『決まっているシーン 書けるシーンから先に書き進める』
という手法が、ある。
確かに。無為に悩んで、ウンウンうめいて真っ白な画面から目を背け続けているよりは遥かにマシな選択であり、書き進めるという行為は揺るがない大正義――なのだが……。
……はい。やっちまうのですよ。冒頭のように――
決まっているシーンから書く=他のシーンは、まだ構成が固まっていなくてガバガバ。
それを、そのまま書き出すと……そこにいないはずの人物が出てくる、そもそも場所が違う、伏線と思って配置したものが、ただの矛盾。等々。
――確かに、書けずにいるよりは100倍マシなのですが……ミスは起こるよ(きかんしゃ風味)
この凡ミスを避けるためには――途中から、造れるシーンから先に書き出すという手法を取る際に重要なのは。
・最初に全体の流れ、設計図は作っておく
・途中で何を思いついても、その設計図からは離れない アイディアは別にメモ
・可能ならば、あらすじ的でもいいから全体の流れを書いておく
――これらができていれば、事故は防げる。はず。作業の流れもスムーズになる。はず。
T氏「できていねえんだよなあ。毎回毎回。10年前から」
不肖「スミマセンスミマセン……許してください何でも書きますから」
T氏「今」
わかっているのにできない。やらなきゃいけないのに、できない。
……この世界の人の営み、とくに私のようなアカン人間には、常に付きまとう自家製の中毒。
般若心経を幾度となく唱え、それを写経し、経文の内容を自分の中で自分に思い知らさせるレベルで幾度も翻訳し、他の研究者の意訳も見、自分で経文の語るところを悟ったつもりでも……。
日々の娑婆の苦悩に、自分から頭を突っ込んで アアア となる日々。
……書けん作家どころか、書いても凡ミスとか。我ながら救えない。
とかとか。アカン物書きの失敗の構図を、皆様にお伝えしたあとではありますが。
『先にそこから書き出しても問題ないシーン 場面は存在する』
――のです。
それは、どんなシーンか。作劇の中のいかなる場面かと申しますと。
『おセッッッな。エッチなシーン。あいつら交尾したんだ なシーン』
これは、いままでの経験からしても、先に書いてしまっても全く問題がないシーン。あるいは最後まで取っておいて、ラストの勢いでうりゃあああと書き上げて、トッピングしても問題ないシーン。
アメリカンなマフィアの男たちのお話、その他の色々なお話――
アダルト向けの、最初っから「おセッッッ」が含まれていることが、製品としても、それを手に取ってくださるお客様からしても、内容にそれが含まれていることは「当たり前だよなぁ?」「そうだよ」と全員で意見が一致する。それがアダルト作品のおセッなシーン。
ここは、登場人物と。その行為に参加する面子、そして関係性(これものすごく大切 間違えると 死).
これさえ出来ていれば、お色気、おエッチなシーンは先に書いてしまっても問題ない、というのが不肖のこれまでの経験。そもそもが、アダルト作品の「それ」は、作品の目的であり、書き手とお客様の契約でもある。
アダルト作品の、「おセッッッ」部分は、例えるなら、餡子。甘いあんこ。
おまんじゅうの中身の、あんこ。甘いところ。それが甘くて美味しいが故に、外側の皮とかの風味が生きてくる、あんこ。
おまんじゅうを作るときに、さきにあんこは煮て、こねてしまっていても問題ない。逆に、あんこもないのに饅頭の皮だけ蒸したりしても、意味不明のでんぷん質だけがそこに発生してしまう。
アダルト作品を書く、というお仕事は――その甘いあんこを丹精込めて作り、それをおまんじゅうの皮で包んで丹精に蒸し上げるが如し……。あんこがつぶあんでもこしあんでも、白あんでもうぐいすあんでも、チョコあんでも。外側が蒸す皮でも、道成寺みたいなお餅と葉桜でも。
やることは、目指すところは同じ――
もちろん、それはおまんじゅうだけではなく――
私もたまにやる手法、お話がいきなりおセッセから始まる。おセッセがいきなりくる、おはぎのような製法。召し上がる、鑑賞していただいているうちに、内側のモッチモチの半ごろしのお餅が舌にのって、満足感がアップ。
あるいは、あんこ玉のように。もうあんこを固めて、それだけでお団子作って売ってしまうというのも。
――つまり。
あんこは、おセッセはシーンは。アダルト作品なら、いくらあっても構わない。どれだけ先にあっても、
ストーリーはあとからそこについてくる、追従すべき。
……と。これまで、おエッチなものを書いて糊口をしのいでこられた不肖の、持論。
もし、何かを書いてみようとしている方々がいらしたら。
もし、手が止まってしまっている方々がおられたら。
この不肖の失敗まみれの書けん作家の、地雷原で吹き飛んで「あっちにいけばよかったー」ていどのたわごとかもしれませんが、何かのご参考になれば……と。
T氏「そのエロいテキストが、毎回遅れているのだが。それは」
不肖「すみませんすみません……。この失敗から学びつつ、次は――」
T氏「毎回、学べていないのだが。それも」
T氏「おうおう。クリスマスのケーキ、これをやるから切ってみいや」
不肖「はっはっは。これでも自分は昔、飲食で働いていたのですよ。包丁使いでしたらおまかせを」
T氏「タイガー戦車のプラモデルもつくれなかったくせに」
不肖「もう日記にした古い話を蒸し返すのはルール無用すぎませんかねえ」
T氏「あれさ。タイガーⅠ戦車じゃなくて、タイガーⅡ戦車。キングタイガーのほうだったら。さすがのおまえでも間違えずに作れたのかも」
不肖「エッ。……ん? んっ、ん……」
T氏「キングタイガーの砲塔の部品は、タイガーⅠよりシンプル。部品数も半分で、砲塔は最初から整形されているから、そこに砲身と底部を――」
不肖「…………。アッ アッアッアッ そうでした。どうして私は忘れて……」
T氏「――……。まさか。おまえ。キングタイガーでも失敗していたんか」
不肖「……タイガー戦車でやらかした、次の年。お年玉で、じぶんでキングタイガーのプラモデルを買ってですね。捲土重来、汚名をですね……」
T氏「――挽回してしまったのか…………」
タイガーⅡ戦車。キングタイガー。
将来、書けん作家になってしまう三河の少年が作ろうとしたキングタイガー、戦車のプラモデルに何が起こったか――今回も図解は、T氏が苦笑しつつ作成してくださったものです。
タイガーⅠ戦車の砲塔は、右、左、主砲基部、天面 の4パーツ構成です。
キングタイガー戦車の砲塔は、板状の底面と、お椀状の上部の2パーツ。
なんと、部品数半分。既にタイガーを経験した私にとって、難しい部分はありません。
設計図通りに、キングタガーの砲塔を組み立てると――
まずは土台となる底面に、大砲の根元を上下にスイングさせるためのパーツと共にくっつけます。
続いて、砲塔を、上部構造(半透明部分)を被せます。
砲塔正面の穴から少しだけ出ている根元に、防盾、砲身の順に取り付けます。
こうしてキングタイガーの砲塔は出来上がります。あとは車体を作って乗せるだけ。
かっこいい戦車の砲塔、砲身ですね。
当時の私は、三河のあかん少年は。まず、かっこいい大砲を作りました。
…………。
前から……。
うしろから……。
ちくしょう!台無しにしやがった!おまえはいつもそうだ。
この出来ん砲塔は、お前の人生そのものだ。おまえはいつも失敗ばかりだ。
――三河のあかん少年は。私は、これ以来プラモを作っておりません……。
年代的に直撃だった、ガンプラブームすらも――手痛い自傷を二度も負った私は、その熱狂を指を加えて見守るしかなかった少年時代でした……
T氏「あのさぁ。ふつうは、一度失敗したら凝りて、二度めはなあ」
不肖「……おそらく、子供の頃の私は。我慢がきかないアカン子で。かっこいい、一番作りたい大砲だけを先につくってしまうのが止められない――いわゆる(自虐)」
T氏「いまでも変わってねえんだよなあ」
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