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あのとき、『ひらやすみ』と出会いたかった【漫画書評】

マンガ大賞実行委員会の有志による「マンガ大賞」で過去2回ランクインした人気漫画『ひらやすみ』。

みなさんは読んだこと、ありますか?

『ひらやすみ』は読むと癒されるだけでなく、1人1人の生き方を肯定してもらったような、不思議と前向きな気持ちになれる作品です。

筆者の私自身、「もっと早く出会いたかったな」と今でも思っているくらい、いろんな境遇の方にぜひ読んでほしい漫画なのです。

今回個人的な分析もかねて、漫画『ひらやすみ』の基本的な情報や、この作品を「面白い」と感じたポイントをまとめてみました。

物語の序盤を試し読みできるサイトも紹介しているので、『ひらやすみ』を読もうか迷っている / 試し読みしてみたい人は、ぜひ最後までご覧ください!


漫画『ひらやすみ』とは?

『ひらやすみ』は、小学館が出版する週刊ビッグコミックスピリッツにて、2021年4月から連載中の漫画です。

2024年8月時点では、第7集まで発売されています。

『ひらやすみ』は連載開始から今まで、「マンガ大賞」といった漫画賞を複数回受賞し、著名人からも愛されている作品なのです。

たとえば、読売 / 日本テレビで放送されているテレビ番組「川島・山内のマンガ沼」にて、パーソナリティの1人、麒麟・川島明さんから紹介され話題になりました。

麒麟・川島明さん以外にも、以下のような著名人が『ひらやすみ』について言及しています。

  • 阿佐ヶ谷姉妹のおふたり

  • ピース・又吉直樹さん

  • 漫画家・和山やま先生   など

2024年4月30日にはシンガーソングライター・澤部渡さんのソロプロジェクト「スカート」とのコラボソング・PVが公開され、現在も着々と人気が広まっているようです。


出版社:小学館
レーベル:ビッグコミック
掲載誌:週刊ビッグコミックスピリッツ
作者:真造圭伍しんぞうけいご
受賞歴:
2021年
「輝け!ブロスコミックアワード 2021」大賞
2022年 
「マンガ大賞2022」3位
「THE BEST MANGA 2022 この漫画を読め!」3位
2024年 
「マンガ大賞2024」8位

『ひらやすみ』の作者って誰?

『ひらやすみ』の作者は漫画家・真造圭伍しんぞうけいご先生です。

過去に『森山中教習所』『トーキョーエイリアンブラザーズ』の2作品が、それぞれドラマ・映画としてメディア化されています。

先生は2020年3月に悪性リンパ腫という病気を発症した経験があります。

当時連載していた漫画『ノラと雑草』を休載し、治療のため入院する運びとなりました。

同時にこの年は新型コロナウィルスが流行しはじめた時期とも重なり、より閉鎖的・不安な日々が続いたようです。

そんな中でも先生は治療している最中に『ひらやすみ』を描き、その後連載が決まったとご自身の短編集『センチメンタル無反応』にて語っています。

ご自身が出演したマンガ沼の番組内で、先生は『ひらやすみ』を発想した理由や、作品へ込めたメッセージを以下のように語っています。

自分の好きなマンガや映画やドラマを思い出して、色々詰め込んだのがこのマンガです。平屋にしたのは、マンションよりもキャッチーだし、平屋を舞台としたマンガが少なかったからです。入院している時に読みたい漫画を目指しました。
いつでも外に出れて、健康で、食べたいゴハンを食べられて、会いたい人と会える。そんな普通の日常が幸せということをかきたかったのかもしれません。

【引用】FANY Magazine 「入院したことで生まれた、入院した時に読みたいマンガ「ひらやすみ」真造圭伍にガチインタビュー|川島・山内のマンガ沼web 」より

『ひらやすみ』のあらすじ

生田ヒロト君、29歳、フリーター。

マイペースに生きる彼は、ひょんなことから仲良くなった83歳のおばあちゃん・和田はなえさんから、一戸建ての平屋をタダで譲り受けることになりました。

その後ヒロト君は、いとこである18歳の小林なつみ(通称なっちゃん)が上京して来ることになったので、彼女と2人暮らしを始めることに。

東京・阿佐ヶ谷にたたずむ平屋を舞台に、ヒロト君となっちゃんを中心に垣間見る、癒しの日常ストーリー。

変わっていく季節と変わらない幸せ。

2人の平屋暮らしは、どのようなモノになるのでしょうか――

『ひらやすみ』の面白いポイント3つ

今ではテレビ番組で紹介されるほど人気となった『ひらやすみ』。

この作品は、一体どんなところが面白いのでしょうか?

正直いっぱいあるのですが、今回は筆者が作品を読んだうえで抱いた感想をもとに、『ひらやすみ』の面白いポイント3つを紹介します。

筆者が思う『ひらやすみ』の面白いポイントは、以下の3つです!

  • やわらかな絵・言葉に癒される

  • 人間らしい登場人物に共感できる

  • 暗いリアルが残る世界観だからこそ沁みる

○やわらかな絵・言葉に癒される

『ひらやすみ』はやわらかな絵・言葉の表現に癒される漫画です。

とくに絵と言葉には共通して、「ゆるさ」や「余白」があるように感じました。

"絵" だと書き込むところは細かくて感心するのですが、基本輪郭に丸みがあります。

また広々とした空間や一部の背景は、あえて書き込み過ぎないようにしているようにも見えます。

一方 "言葉" では、「~なのでした。」という絵本を読んでいるようなゆるい語り部が印象的です。

そして普段なんとなくでしか認知できない季節の空気間が言語化されていて、スッキリした感覚になります。

たとえば筆者は、以下の表現が印象深く残っています。

ヒロト君は春は夕方が好きだ。
少し世界が白っぽくて、街の明かりが一番キラキラして見えるからです。

【引用】小学館・真造圭伍『ひらやすみ』第1集「0日目 / ヒロト君の休日」185ページより

絵・言葉に共通するゆるくて余白のある『ひらやすみ』の表現は、自然と読み手の身体をリラックスさせてくれるのかもしれません。

実際の絵・言葉が気になる方は、のちほど紹介するXの投稿をぜひ見てみてください!

○人間らしい登場人物に共感できる

『ひらやすみ』の登場人物は ”良い人” 過ぎないからか、読み手も共感を持てる人が多いです。

癒し系漫画ではありますが、みんな良い面・悪い面のどちらも持っていて、ただただ平和なわけではないんです。

今回は、以下の登場人物3人について一部ご紹介します。

■生田ヒロト 29歳のフリーター
『ひらやすみ』の主人公・ヒロト君は、作中とくに心優しい人物です。
けれどマイペースで周りの空気を読まないところがあり、場合によっては人をイライラさせたり、驚かせてしまうこともあります。

■和田はなえ 83歳の元給食のおばちゃん
ヒロト君と仲良くなったはなえおばあちゃん(通称ばーちゃん)は、普段は人に対する言い方がキツくなってしまいます。
その一方、1人暮らしだったヒロト君に週1で夕食をふるまったり、素直に人へ優しくできない自分を思い悩んだり、実はとっても優しい人なんです。

■小林なつみ 18歳の美術大学新1年生
ヒロト君といとこのなっちゃんは、思春期だからか彼へ強く当たってしまったり、入学後は大学に馴染めずツンとしてしまう一面があります。
そんななっちゃんですが、漫画家になるため1人で執筆・応募する頑張り屋さんでもあります。

癒し系漫画というと「みんな良い人」というイメージがあるかもしれません。

一方で筆者は人間らしいところが見えるからこそ、読み手が登場人物に共感でき、好感を持てるように思いました。

○暗いリアルが残る世界観だからこそ沁みる

『ひらやすみ』は癒し系漫画ですが、現実の暗い部分もしっかり描かれています。

時おり切なさを感じると同時に、心に染み入るような癒しも感じるのです。
登場人物たちは日常の中で、それぞれなにかしら悩みを抱えています。

大学に入学したてで不安いっぱいのなっちゃんや、普段はおだやかなヒロト君さえ、自分の悩みや心の奥底にあるひっかかりと向き合う場面があるのです。

けれどそんな苦難を乗り超えた彼らのスッキリした表情や行動に、読み手の心も動かされ、勇気づけられるんです

心苦しさを感じるお話もあるけれど、そんなリアルが描かれるからこそ、平和なお話が癒しにつながり、より尊く感じます。

"暗い描写" と "平和な描写" 、真反対に感じるこの2つ。

不思議とどちらも交互に、そして綺麗に合わさっているのが、『ひらやすみ』を「面白い」と感じる大きなポイントなのです。

『ひらやすみ』は ”今休んでいる人” におすすめの漫画

『ひらやすみ』は体調不良・キャリアブレイクといった様々な理由で、学業・お仕事をお休みしている人へとくにおすすめです。

なぜなら、私自身がこの漫画を読んだときに「休職中にこの作品と出会いたかったな」と思ったからです。

主人公・ヒロト君はフリーターで、決して裕福な生活ではありません。

しかし彼の日常を見ていると、大したことはしていないのに、すごく幸せそうなんです。

自分が「心地よい / 行きたい」と思えるところに行って、「食べたい / 作りたい」と思ったものを食べて、「会いたい」と思える人にすぐ会いに行く。

主人公・ヒロト君が「自分の願いに蓋をせず、素直に行動しているから幸せそうに見えるんだろうな」と、筆者は感じました。

まさに作者・真造圭伍先生が語っていた幸せの形なんですよね。

うつ状態で休職したことのある私は、初めて『ひらやすみ』を読んだとき、「休職中に読みたかったな」と思いました。

それは自分のペースで幸せそうに生きているヒロト君や登場人物たちに元気づけられ、「生きてさえいればなんとかなる」と、少し安心感を持てたからです。

『ひらやすみ』は、幅広い人に楽しんでもらえる作品かと思います。

けれどその中でも、「今は少し休みたい」「歩みを止めて自分のあり方を考えたい」と思っている人に、『ひらやすみ』を ”休みのお供" としておすすめしたいです。

『ひらやすみ』を公式で試し読みできるサイト

単行本を買う前に『ひらやすみ』の序盤を読んでみたいという人には、公式から公開されている以下のサイト(2024年8月時点)で読むのがおすすめです。

  • 小学館公式Web漫画サイト「ビッコミ」

  • 作者・真造圭伍先のX

  • 雑誌「BRUTUS」公式Webサイト

次の項目から、それぞれのサイトを詳しく解説していきます。

○小学館公式Web漫画サイト「ビッコミ」

「ビッコミ」は、小学館が発行しているビッグコミック系列の青年誌を読める公式サイトです。

「ビッコミ」での『ひらやすみ』は、序盤の3話分を無料で試し読みできます。

また「週刊ビッグコミックスピリッツ」の公式Webサイトからも「ビッコミ」へ移動でき、『ひらやすみ』の公式紹介を見たうえで本編を読めますよ。

  • 小学館公式Web漫画サイト「ビッコミ」

  • 「週刊ビッグコミックスピリッツ」公式Webサイト

○作者・真造圭伍先生のX

『ひらやすみ』の作者・真造圭伍先生は、Xで自身のアカウントを開設しています。

Xでは序盤の1・2話と合わせて、『ひらやすみ』のプロローグにあたる0話も投稿されています。

単行本だと見られない、水彩絵の具で彩られた1話の巻頭カラー・0話のフルカラー版を見られるのが魅力的です。

『ひらやすみ』の最新情報や、先生が描いた制作途中のイラストを見ることもできます。

  • 第1話(1日目)

  • 第2話(2日目)


  • 「ヒロト君の休日。」(0日目)


○雑誌「BRUTUS」公式Webサイト

雑誌「BRUTUS」の公式Webサイトでも、じつは『ひらやすみ』を読めるんです。

掲載されているのは、2021年4月15日に発売された雑誌「BRUTUS」No.937の中で、本編『ひらやすみ』の連載前に描かれた特別描き下ろし

ネタバレはないので本編への楽しみを残しつつ、単行本では見られないフルカラー版を読むことができます。

同じ作品が真造圭伍先生のXでも掲載されていますが、横スクロールでスムーズに読みたい人には「BRUTUS」も読みやすいかと思い、掲載させていただきました。

『ひらやすみ』は生きる人々に寄り添う癒し系漫画

このnoteでは漫画『ひらやすみ』について紹介してきました。

『ひらやすみ』は癒し系漫画でありつつも、現実的な描写があるからこそ読み手も共感できる作品です。

作中にある前向きで優しい言葉は心身を癒すだけでなく、日々の疲れ・苦しさを抱える読み手に寄り添い、背中を押してくれることでしょう。

興味が湧いた方は、ぜひ『ひらやすみ』を実際に読んでみてくださいね!

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