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君の名前で僕を呼んで

どう見ても好きなジャンルであるにもかかわらず、恥ずかしながら機会を逃し続けて今回やっと観た、『君の名前で僕を呼んで』(2017)。

もう…見終わった直後は言葉が出ず、ただただ涙が流れるばかり。

『モーリス』のジェームズ・アイヴォリーが脚本を書いていて、エイズ禍が吹き荒れる直前の1983年、北イタリアを舞台にした作品。
主人公エリス(ティモシー・シャラメ)の元に、大学教授をしている父(マイケル・スタールバーグ)の教え子オリヴァー(アーミー・ハマー)が夏休みで家にやってくるところから物語は始まる。

細い肢体でまだ幼さの残るエリスと、はっきり大人の男とわかる(しかし老いの気配はまったく訪れていない20代)オリヴァーとの対比がすごく良い。エリスはまだこの感情が性欲なのか恋なのか愛なのか整理がついていない分飛び込める力があり、それに対してオリヴァーはもう自分が何者であるか、そしてそれを口にしてしまうとどうなるかわかっているから臆病な部分があるし、最初から「この夏だけ」と知っている。

オリヴァーがアメリカに帰ってしまって傷心の息子を前に語られる、二人以上に二人のことをわかっている父親のセリフに泣かされた。
「お前の体験を羨ましく思うよ」
「多くの親は早く終わらせたいと願い、息子が冷静になることを祈る。私はそういう親ではない。人は早く立ち直ろうと自分の心を削り取り、新たな相手に与えるものが失われる。だが、何も感じないこと…感情を無視することはーーあまりに惜しい」
「お前の人生はお前のもの。だが、心も体も一度しか手にできない」
「痛みに蓋をするな。感じた喜びも忘れるな」
自分もかつて息子と同じような体験を得る直前で”自制心”からそれを逃してしまったことを語り、今はどれほど辛くとも、そのかけがえのない体験を決して忘れるな、と言える父。
その日を逃したら、もう二度と手に入らない。今の心も今の体も、今だけのもの。

しかし、父は「ママはきっと知らない」と言っていたけど実は母は知っていて、母が知っていることに息子は気づいている(父は気づいてない)、というところもそれぞれが息子と共犯関係を結んでいるようで、良かった。

最後、実はオリヴァーには2年間付き合っていた彼女がいて婚約したということを電話で聞かされ、暖炉の前で静かに泣くエリス。この表情が辛くて思い出すだけで涙が…。オリヴァーの立場ももちろんわかるけど、辛いよね…。愛し合ってるのに失恋。「一つも忘れない」というオリヴァーの言葉はきっと本当。

時代に順応して生きたら、エリスもいつか女性と結婚し、子供を作って、両親のように幸せになるだろう。そして子供や孫に囲まれて死の時を迎える時、最後に思い出すのはあの夏の日、オリヴァーと過ごした夏の日のことなのだ。

「良い思い出」で済ますにはあまりにも美しく、悲しい。
でも、苦しい結果になるとわかっていても、”体験”を否定しないことは自ら選んだ人生を肯定すること。そこがすごく好き。
イタリア、夏、美しい男が二人。これだけでもう反則級でしょ、というのもあるけど笑。

★NANASE



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