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ハウス・オブ・グッチ
楽しみにしていたリドリー・スコット監督の最新作『ハウス・オブ・グッチ』、池袋で観て来ました。
・・・結論、レディー・ガガは天才!(今更)
彼女以外も、豪華な俳優陣の演技は素晴らしかったし、映像やザ・80年代なBGMも個人的に楽しかったけど、話としてはインパクトに欠けるし、全体的にキャストに頼りすぎな印象で、名作とは言い難いかな〜、観てよかったけど。
『ハウス・オブ・グッチ』は、誰でも名前を知ってる高級ブランドGUCCIの創業者一族のお家騒動を描いた話。
お家騒動の内容自体はWikipediaにもあるので書いてしまうと、ガガ様演じるパトリツィア・レッジャーニがグッチ家の御曹司マウリツィオ・グッチ(アダム・ドライバー)を落とし、一族の反対を押し切って結婚。その後グッチの経営に口を出すなど色々やりすぎて夫に嫌われ離婚され、仕返しに殺し屋を雇って夫を殺害するまでを描いている。
前半のマウリツィオを落とすまでのパトリツィアが、本当に魅力的!
パーティーで出会って「グッチ」という家名を聞いた瞬間目を輝かせ、偶然を装って積極的にアプローチする現金な女の子なのだけど、別に騙されててもいいかなーと思うくらい魅力的。エリザベス・テイラー風の髪型とメイクがよく似合ってた。自分の魅せ方を知っていて、健康的で肉感的な体はとてもセクシー。無知や勉強嫌いを隠さないところも可愛い。対するマウリツィオは弁護士を目指すおとなしそうな好青年で、多分周りにいるお嬢様たちとは一味違う、ちょっと蓮っ葉なパトリツィアにイチコロでやられたんだと思う。
マウリツィオにはグッチの経営を継ぐ気などなくて、自分でも「(グッチ一族の)トスカーナ気質が足りないんだ」なんて言っていた。だからパトリツィアとの結婚を反対されて父親ロドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)に勘当され、パトリツィアの父親の運送会社で働いていた時も楽しそうで、むしろ1番幸せそうだった。
でも野心に目をキラキラ輝かせる美しいパトリツィアはそんなことでは満足しない。うまくロドルフォの兄アルド(アル・パチーノ)に取り入って、マウリツィオに弁護士の夢を諦めさせ、ニューヨーク行きを決める。
マウリツィオ「今が1番幸せなのに、なぜそれを変えようとする?」
ちょうど良いタイミングで子供も生まれ、気難しいロドルフォを懐柔することにも成功し、この頃が彼女の絶頂期かもしれない。
ちなみにニューヨークの豪邸のベランダでポーズをキメるパトリツィアは、完全に世界のスーパースター・ガガ様でしたw
この辺で満足していれば良かったと思うのだけど、すべてが欲しいパトリツィアは怪しげな占い師ピーナ(サルマ・ハエック)にハマり、「あなたは女王になれる」などと言われて、飴を与えることなくマウリツィアやグッチ家を自分の意のままに操ろうとしたところから歯車が狂い出す。
それに合わせて、あれほど魅力的だったパトリツィアの蓮っ葉さが、どんどんグッチ家にはそぐわないただの下品さ、無教養さの証にしか見えなくなってくる。この演技もすごい。
多分マウリツィオの心の変化で、彼の眼に映るパトリツィアがそういう風に変わっていったのだと思う。
恩人である叔父アルドを投獄し、その息子パオロ(ジャレッド・レト)とも仲違いさせる、怖い女。
彼自身も最初の頃の勉強好きな好青年ではなくなっていて、自分の家名の価値を自覚し、それに酔い、どんどんエレガントになっていく。下品な女になっていくパトリツィアとは対照的に。もう2人が合わないのは一目瞭然だ。
ここでもうひとりの女性・パオラ(カミーユ・コッタン)が現れる。詳細はよくわからないけど、どうもマウリツィオの幼馴染らしい。パトリツィアとは正反対のエレガントな女性。結婚前のパトリツィアが動の魅力だとしたら、パオラは静の魅力。薄い金髪にモデル風の痩身、憂いを含んだ知的な瞳。彼女に惚れるという時点でもうパトリツィアみたいな女は嫌(ふさわしくない)、という心境なのが伝わる。
こうしてパトリツィアには1ミリの愛情も無くなったマウリツィオ。「どう?新しい髪型、似合う?」と聞かれ、全然表情を見せずに「ああ、似合うよ、とてもシックだ」というシーンは怖かった…。
パオラの登場と、一家が信用してきた法律顧問ドメニコ・デ・ソーレ(ジャック・ヒューストン)を疑ったことが決め手となり、パトリツィアはあっけなく追い出される。この辺、お金があるといいよね。一般庶民はこんなに簡単に妻を追い出したりできない(ま、お金がなければ殺し屋雇って暗殺される、なんてこともないのだけども)。
もう愛してない、という彼に付き纏い、子供の写真や家族写真を見せてすがりつこうとするパトリツィアの姿は哀れで惨め。
もう一つ重要な点が、この頃のグッチはもはや一流ブランドではなく、ランウェイでは誰も注目しないようなつまらないブランドだったという時代背景。いくら過去の名声があっても、このままでは経営が成り立たない。
アルド&パウロの恨みを買いながらも株を買収して晴れて大株主となったマウリツィオは、自分には経営の才能があると思い込み出したのか、グッチを復活させるデザイナー探しを始める。そこで前述のドメニコ・デ・ソーレが見つけてきた新進気鋭のアメリカ人デザイナーがトム・フォード(リーヴ・カーニー)だった(マウリツィオの案はヴェルサーチを連れてくる、とか現実性も革新性もない案で、あんまり経営手腕がないのがわかる)。
このショーのシーンはかっこいい!ゲイゲイしくて前衛的なショー!カウボーイが履くチャップスを素肌に着るセクシーすぎるスタイルをランウェイでやったのはトム・フォードが最初なのかな。テキサス出身だからか。
というか、ドメニコ優秀すぎない? グッチ家のめんどくさい諸々を法的に処理するだけじゃなくてデザイナーまで発掘してくるわけ??
とか思っていたら、ショーの成功に浮かれて登場したマウリツィオに、衝撃の事実が発表される。マウリツィオは経営能力の無さと度を越した浪費癖を糾弾され解任、既に新CEOにドメニコが就任するところまで決まっていたのだ。ドメニコ、恐ろしい子・・・!ここまで計算のうちとは・・・(後で調べたら、ドメニコ・デ・ソーレはトム・フォードと共にグッチを再建した超有名な敏腕経営者らしいですね)。
この間に、チンピラの情婦みたいな見た目になってしまったパトリツィアが占い師ピーナと組んでマウリツィオの暗殺を画策しており、かくしてグッチの経営権を失ったマウリツィオは、あっさりと殺されてしまうのでした…。
最後の裁判所でのシーンで「パトリツィア・レッジャーニ」と呼びかけられ、「グッチ夫人と呼びなさい」と答えるシーンは印象的。
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完全にパトリツィアの映画だったことを考えると、あれほどグッチという名前にこだわったパトリツィアが結局は最後までよそ者だった点なんかを取り上げて、家父長制に追い詰められた、としたかったのかなと思う。
例えば喧嘩になって、マウリツィオに「グッチの名は僕の名だ!」と言われた時にパトリツィアが「私たちの名よ!」というシーン。
それから、パトリツィアを押し上げてくれたアルドに「女が仕事に口を出すな」みたいなことを言われるシーン。
確かにこれが普通の夫婦の話なら、妻を家族の一員と認めない男尊女卑発言になると思うんだけど、最初からグッチの名が欲しくて結婚している上、特に才能があるわけでもないのにグッチのデザインや経営に口を出しているので、言われても仕方ないかなと感じてしまう。
それから気になるのは、マウリツィオは少なくとも最初は本当にパトリツィアのことが好きだったと思うけど、パトリツィアは愛してなかったんじゃないかというところ。弁護士志望だったマウリツィオの中に経営の才能を見出して(=彼のためになると思って)経営者になるように促していた訳でもなく、どちらかというと「私の助言がないと彼はダメだから」くらいに思っていた感じ。実際皮肉なことにパトリツィアの言う通りドメニコは確かに裏切っていたし、あながち間違ってもいないのだけど、彼女と出会わなければ弁護士として充実した人生を送っていたかもしれない。
このあたりが、グッチ家に抑圧されて追い詰められた女、というにも、野心家の女の栄光と挫折、というにもちょっと中途半端でイマイチ乗り切れない部分かなあ。
まあ、そもそも事件としてそこまでの深みも面白みもないので、正直、同じデザイナー業界のスキャンダラスな殺人事件という意味では『アメリカン・クライム・ストーリー』のヴェルサーチ編の方がずっと良かった。トム・フォードとドメニコ・デ・ソーレのサクセスストーリーのが興味あるかも笑。
だからこそレディ・ガガの力でパトリツィアをキャラ立ちさせるしかなくて、その意味では大成功してる。あとはマウリツィオのなんとも掴み所のない(主体性のない)キャラクターもアダム・ドライバーが不思議な魅力がある感じに演じてたと思うし、アル・パチーノはイタリア人役で出るだけで嬉しいのでもちろんOKだし笑、ジャレッド・レトはとても楽しそうに間抜けなパウロを演じていて面白かった。
というわけで、完全にキャストの魅力で持って行った159分だなという感想だけど、中でもガガ様の演技力にはほんと脱帽です。アリーみたいな歌手の役じゃなくても全然できるってすごい。女優としてももっと観てみたい!
あ、あと、蛇足ですが、あのイタリア語風英語は謎すぎるから普通に英語で良いんじゃないかと思った。笑。
★NANASE★