本当においしい杏仁豆腐を求めて
杏仁豆腐との出会いは、4、5歳の頃まで遡る。
幼稚園の昼食で初めて出会った、白濁色のプルプルとしたデザート。杏仁豆腐を杏仁豆腐たらしめる、あの独特な甘い匂い。底の薄い丸いカップに収められたそれを、かろうじて一口食べられたかどうかも覚えていない。私はすぐに拒否した。幼稚園生にはあまりにも受け入れ難い、大人の味だった。
その日の幼稚園のゴミ箱には、大量の杏仁豆腐が捨てられていた。あれから幼稚園の昼食で杏仁豆腐が出ることは無かったと思う。
それ以来私は、杏仁豆腐を徹底的に避けていた。日常で杏仁豆腐を食べないことはもちろん、時折給食で登場するフルーツポンチの中に入っている白いダイヤ型のそれを、寒天か杏仁豆腐か見分ける至難の業にも挑戦していた。
いつからそれを、何なく食べられるようになったんだろう。
きっかけになったのは多分、大学1年の頃から7年半付き合った元カレの好物が杏仁豆腐だったことだ。冷蔵庫の中には常に杏仁豆腐が3つ以上ストックしてあったほど。あまりにおいしそうに食べるので一口もらうことにした。
あの独特な甘い匂いは幼稚園生の頃に感じたものと同じ。けれど、毛嫌いするほどの味では無かった。いや、むしろおいしいかもしれない。私はそれから杏仁豆腐に自ら手を出すことになった。
ファミリーマートで販売されている『杏仁豆腐は飲み物です。』は、前職の休憩時間に必ず飲むほど好物になった。
そしてとうとう私は、究極の杏仁豆腐に出会う。2、3年前、前職の先輩とよく食べに行った『揚州商人』の杏仁豆腐だ。
濃厚なミルクの味。浸っている汁も全て飲み干してしまうほどのおいしさ。私はすっかり杏仁豆腐にハマった。
最近では職場のパートさんに、カルディのパンダ杏仁豆腐を紹介してもらった。パンダのデザインが可愛いこの四角いパック、どうやら私が知らなかっただけで、かなり有名らしい。揚州商人の杏仁豆腐を彷彿とさせるミルク感だった。
そして昨日ついに、私のこれまでの常識を覆す杏仁豆腐に出会ってしまった。
日立市にある焼き鳥店『炭火 季節料理まみや』の「自家製クリーム杏仁〜黒蜜きな粉〜」だ。
杏仁豆腐の味付けに黒蜜きな粉は珍しいと思ったが、すくってみるとびっくり。クリーミーさが桁違い。少し固めのプリンのようにどっしりしているのだ。
これは杏仁豆腐なのか……?黒蜜ときな粉を避けて、杏仁豆腐だけ試しに食べてみる。独特の匂いが少ない。たしかにプリンではないが杏仁豆腐かと言われると……もはや豆腐に近いのか……?
脳にバグを起こしたまま完食。あれは何だったんだろう。カウンターに座っていたにも関わらず、最初から最後まで店主と全くコミュニケーションが取れなかったので、この驚きと感動を伝えられなかったことだけが悔やまれる。
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