ドーナツの輪は、平和の輪
「ほんと、うちの旦那ってドーナツが大っ好きで。ドーナツ見たらもう元通りよ」
現在働いている老人ホームの厨房で、パートの主婦さんがそう、呆れながらも楽しそうに語った。夫婦喧嘩が勃発して3日目、いい加減なんとかしなきゃいけない気持ちで、ミスドでドーナツを買って帰ったそうだ。「これで仲直りできなかったらもう、知らない」と思って。
その日はちょうど、バレンタイン前日。ゴディバとのコラボドーナツをバレンタイン代わりに3種類購入して冷蔵庫に入れると、旦那さんはすぐ食いついた。「え、これ誰買ってきたの?」「私だけど」「食べていい?」「ちょっと待って。これは息子と3人でどれ食べるか決めよう」
きっと、夫婦喧嘩のきっかけは単純だし、終わりを迎えるのもあっけない。
「ドーナツでうちはすぐ平和になる。ドーナツの輪は平和の輪だよ!」
一緒に盛り付けをしている私たちは笑った。「今のすごい名言ですね!これ、エッセイに書きますよ?!」と冗談半分で断りを入れて今、こうしてしたためさせてもらっている。
この話を聞いてから私は無性にミスドに行きたくなり、他にふさわしいカフェはたくさんあるのに、オンラインミーティング場所にミスドを選んだ。入り口でトレーとトングを取り、ケースに並ぶドーナツをワクワクしながら眺める時間が好きだ。そして長らく目移りしても結局、いちばん大好きなポンデリングをひとつトレーに載せる。
ケースの下の段には、茶色いひらけた箱に収まる上品なドーナツが2種類並んでいた。まだゴディバのコラボドーナツが販売されている。
私は入り口のトレー置き場のところまで戻ってテイクアウト用の紙袋を手に取り、そのうちのひとつを慎重におさめた。2時間後、平和の輪とバレンタインを贈るために。
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