イエベ秋だけどピンクメイクがしたい私は、頭の中まで春に染まっている
洋服や小物など、身につけるものとしては苦手意識のあるピンク色だけれど、ピンクのメイクは好きだった。
特に学生の頃、「春にぴったり!おすすめのピンクメイク」のような動画をJR山手線の広告動画で見かけたときは、ピンクのアイシャドウを涙袋にまで塗り、それに合わせてチークも口紅もピンクにした。洋服や小物として身につけるには少し恥ずかしいピンクも、顔にまとえば可愛らしいそれに気分が上がり、うきうきした。春はやっぱり、ピンクがいい。
けれど、いつからかを境に私はピンクメイクが似合わなくなった。
ピンクのアイシャドウは居心地が悪そうにまぶたに添えらえ、ピンクのチークは頬のいちばん高いところで悪目立ちしている。ピンクの口紅も、本当に似合ってなさすぎておかしい。恥ずかしさを通り越して、笑ってしまう。
パーソナルカラー診断をするより前に、私の肌色は「イエベ秋」と自覚していた。
スカイブルーよりターコイズブルーだし、黄緑よりもカーキ。似合う・似合わないの判断が自分でできるほど、それは明らかだった。私の似合うものは、どの色も少し暗く、落ち着いた印象を与えるものだった。
それはきっと、メイクも例外ではない。可愛らしいパステルピンクより、オレンジのチークが私の頬には馴染んだ。アイシャドウも茶色一択。いつからか、私の顔を飾る色はそればかりになっていた。
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夕方5時、駅のトイレで鏡に向かって一生懸命「可愛い」を作り上げる女性を見るのが好きだ。
ポーチを出してファンデーションを塗り直し、いちばん自分が胸を張れる口紅をつける。「可愛い」は顔だけではない。いい匂いのするミストを髪にまとい、前髪を整える。全ての準備が整ったら、鏡に向かってにこっ、として見せる。
十分可愛い、だから大丈夫だよ。
って、言いたい。この工程を、これから彼女たちに会う人が知り得ないのが、とてももったいなく、愛おしい。そんな彼女たちを、お決まりのメイクを塗り直し、2ヶ月前の誕生日に母に買ってもらった小型のヘアアイロンを温めている私は眩しく見送る。
いつまでも、決まった色で妥協する自分、卒業したい。
SHEmoneyの短期集中プログラムにて、「メイクをちゃんと習いたい」と宣言した。チークの乗せ方とか色の選び方次第で、またピンクメイクを叶えられるだろうか。
春はやっぱり、ピンクがいい。頭の中までピンクに染まった私が夕方、自宅の扉を開くと、季節外れの気怠い春の風が出迎えてくれた。