どこでも行けるように在宅ワークを実現したら、どこにも行きたくない家が完成した
朝、遅めの時間に起きて、リビングのカーテンを開ける。部屋の印象を大きく左右する、いちばん大きな窓のカーテンは、爽やかな淡いブルー。パートナーとふたりで選んだ、お気に入りの色だ。
テレビを付けると、じゅん散歩のオープニングが流れる。「エビアン起きるの遅いから、羽鳥さん終わっちゃったよ」と、パートナーが笑った。
今年の9月末、私は1年勤めた特養施設でのパートを辞めた。
当初、ライター業の息抜きとして「お手伝い」で入ったのが、いつの間にか固定収入として生活に欠かせない仕事となり、気づいたらフルで働いていた。パートナーと出会ったのも、このときだった。
固定の収入は欲しい。
仕事に充てる時間は、自分が成長できる時間にしたい。
まだ20代だし、せっかくならもう少し、自分の可能性を広げたい。
自分の人生が自分だけのものでは無くなったとき。仕事、お金、家族を真っ当に考えて、転職を決意した。
思えばフリーライターを目指したのも「好きな場所で働きたい」という理由が主だった。それなら、在宅で働ける仕事を選べばいい。本職が在宅でできれば、書くことを趣味で続ける余裕も生まれるはず。本職が軌道に乗ってから、副業を考えればいい。
緊張も決意も不安もない、ただ「人生の通過点」として、10月から新しい世界に飛び込むことになった。
新しい職場での研修中、15分の休憩時間で2階のキッチンに行き、スムージーを作る。60分休憩では、簡単な昼食を持って、3階のオープンテラスで食事する。残りの時間は外で読書したり、隣の寝室で寝転がったりだ。
スムージーもオープンテラスも、先月から整えた。
「家で仕事をするのだから、家の時間を充実させたい」という方針のもと、私は先月、家の整理整頓に勤しんだ。
パートナーの母親がたくさん抱えた食器を断捨離して、新しい保温ポットと藍色の急須をしまった。
家から徒歩3分のセブン・イレブンで満たしていたスムージー欲は、簡単に満たせることも知った。ジューサーは4000円以内で買えるし、豆乳とバナナさえあれば、どの具材をどれだけ入れてもだいたい美味しいスムージーが作れる。
「眺めが最悪」とパートナーから定評のオープンテラスは、たしかに目の前は隣の家の壁だし、両脇も圧迫感のある壁で囲われている。いくら見上げても、青い空は長方形に切り取られている。
けれど、「眺めが最悪」の逆は、「誰からも見られない」。
外にいながらひとりになれる空間は、とびきり最高で、休憩にはちょうどいい。
こうして訪れる毎日は、インスタのストーリーズに載せるまでもない些末な出来事で、どこにも行きたくない幸せなのだ。