それは「好きな色」じゃなくて「似合いそうな色」を応えているだけでしょ
「好きな色」ってどうやって決まるんだろう。
幼稚園のときは迷わず「赤」と応えた。学習机に付属する椅子の色は赤色だったし、新しく買った鉛筆削りも赤色。赤い洋服を着ていた覚えはないけれど、とにかく私の周りはいたるところに赤が含まれていた。
小学生に上がったら、好きな色は「水色」と応えた。
本当は紫が好きだし、黄色も好きになり始めていた。赤もまだ、好きだった。水色は別に、好きじゃない。けれど、周りの女の子はみんな水色が好きだったから、それに合わせた。
小学4、5年生くらいだった頃の下校中、クラスメイトの女子4人で帰っていたとき、リーダー格の子が突然「みんなの好きな色はなーに?せーのっ、」と、全員で一斉に応えるフリをした。当然みな声を合わせて「みずいろ!」と言う。妙な一体感に、満足気に微笑んだ。
けれどそのうちの1人だけは違った。「ほら、みんな水色って言うと思った。私は本当は黒が好きだけど、合わせたんだよ」とこぼしたのだ。その場はすこしの沈黙を挟んで、好きな色の話はあっという間に無かったことになった。
好きな色を堂々と言えるその子がすごいと思ったと同時に、私も正直に別の色を応えていれば、彼女の居心地の悪さもすこしは解消されるだろうに、と、申し訳なさを覚えた。心が痛む出来事だった。
中学から社会人になるまでの好きな色は、一貫して紫だった。
プレイカラーは紫だけで2種類ペンを使い分けていたし、紫が基調のブランド『ANNA SUI』を好んだ。もう、周りの好きな色に合わせる必要はない。私は紛れもなく紫が好きで、それを「渋いね」と言われることはあっても、誰からも咎められることはなかった。
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5年ぶりくらいに訊かれた「好きな色は?」という質問に、私は応えを窮してしまった。わからない。紫は過去に惹かれたほどでは無くなっていたし、赤は私には眩しすぎる色になっていた。
社会人3、4年目あたりから、渋めの緑色を手にすることが増えたから、カーキ?
いやそれって、当然「好み」もあるけど、自然と「似合いそうな色」を選んでいるだけじゃない?
大人になってから好きな色を堂々と言えなくなったのは、人の目を気にして自分にフィットする色を探すようになったからかもしれない。
けれど遡ってみれば、幼稚園児のときに赤が好きになったのは、母が赤いものを買っていたからで、小学生のときに水色の自転車を選んだのは、好きな色を「水色」と偽り続けていたら本当に水色が好きになってしまったからで。
好きな色なんて、最初からそんなもんなのかもしれない。
ふと眼前に現れて人を魅了しては、儚くすぐ消え去ってしまう、虹のようなものかもしれない。