猫ラーメン
僕が京都に来た時すでに猫ラーメンは潰れていたらしい。そもそも、猫ラーメンと呼ばれるラーメン屋が森見作品の外に実在していたことも、それが潰れたことも僕には知る由もないのだが、それでもそうなのだろうと思う。
同室が帰省した日はちょうど祝日であった。なにかとよく飯を食べていたので、果たして自分が一人でご飯を食べられるか危うい。生活リズムの合う(というか互いに足を引っ張り合う)同室がいることでご飯を食べる理由が一つ増えている。昼過ぎにふたり目を覚まし、寮食の売り切れを確認して喫茶泉輪に行くことがよくある。僕と同室どちらもその喫茶の店主を好いていて、なおかつ安い・うまい・デカいという大学生のためのような定食を出してくれる。その日は夏バテと躁鬱のダブルパンチで食欲がなく、それでも、無理に飲んだ酒で胃が痛んでいたので泉輪へ向かった。だが、祝日であった。泉輪のある通りからは東山の空がよく見え、無限の途方に暮れてしまう。泉輪はいく当てがない時の命綱だからとつい先日に同室に語っていたので命綱が途絶えた僕にただ水面が近づくだけだった。
仕方がないから京大病院の裏へ向かう。ラーメン、焼きそば、喫茶店、カレー、イタリアン、もはやなんでもいいからどこかしら開いていてくれ!胃は痛む一方。だがどこもやっていない。それでは荒神橋を渡って河原町通を歩くが、完売・満席。もし猫ラーメンが実在し、閉業していないのであれば、間違いなく僕は今頃猫ラーメンの匂いを嗅ぎ分けて屋台を見つけていただろう。しかし、今、僕はローカルチェーンのラーメン店にいる。食欲もないのにこってりラーメンなど食べれるわけないのだが、苦肉の策。今こうして文章を書いているのはラーメンが提供されるまでなんとか気持ちを誤魔化すためなのだろう。どうやら猫ラーメンはもう潰れたらしい。