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深夜のプリクラ

これは1990年代後半、プリクラブームの真っ只中に高校生たちの間で広まった話だ。当時、どこのゲームセンターもプリクラで賑わい、深夜まで開いている店も多かった。そんな中、ある奇妙なプリクラ機についての噂が囁かれていた。


そのプリクラ機は、普通のプリクラ機に混ざって、ぽつんと一台だけ設置されている。特に目立つわけでもないが、近づくと妙に古びた感じがする。ボタンや画面のデザインが一昔前のもので、今となっては珍しいタイプだとすぐにわかるらしい。

プリクラ機の正面に立っても、正確な機種名やメーカーがどこにも表示されていない。ただ、フレームにだけ「青い蝶」とだけ書かれている。意味もわからず、なんとなく不気味に感じたという話も多い。


そのプリクラ機を使うとき、まず不気味な体験が起こる。通常のプリクラ機は、カメラに向かってポーズをとるときに明るいフラッシュが焚かれるが、その「青い蝶」にはフラッシュがない。シャッター音も鳴らず、ただ、何も変わらない無音の中で撮影が進むという。

そして撮影後、プリクラのデザイン画面が表示されるが、選べるフレームは一種類だけだ。それは、中央に青い蝶がぼんやりと浮かんだもので、どれだけ変更しようとしても他のデザインには変えられない。

出来上がったシールを手に取ると、そのプリクラには、なぜか写した覚えのない人影が必ず入っているらしい。ぼんやりとした顔、髪だけが不自然に映り込んでいて、誰かと撮ったわけでもないのに「自分以外の人」がいるように見えるという。そしてその影は、いつもこちらを見ているわけでもなく、ただどこか遠くを見つめているようだ。


この「青い蝶」のプリクラ機にまつわる噂には、もう一つの奇妙な話がある。プリクラを手に入れたその数日後、街中や学校で「プリクラに映り込んだ人影」が見えるようになるというのだ。たいていは人混みの中や電車の向かいに立っているのだが、少しずつその距離が近づいてくる。毎回どこかで目が合うわけでもなく、こちらに気づいているわけでもない。ただ、すれ違いざまに見かける顔が、「青い蝶」のプリクラに映った顔と同じだという。

しばらくすると、いつの間にかその人影が自分の部屋の窓越しに立っているのが見えることがあるという。だが、窓越しに見るその影は、プリクラ機で見た時のまま、こちらには気づかず、どこか遠くを見つめたままなのだ。


この話が広まってから、「青い蝶」のプリクラ機は次第に使われなくなり、やがてどこのゲームセンターからも姿を消したという。だが、未だにどこかの古びたゲームセンターの奥にひっそりと置かれているという噂もある。見つけてしまったら、好奇心で使わないことをおすすめする。

…もし、気づかないうちに、その「青い蝶」が近くに寄ってきたら、もう二度と離れなくなるかもしれないからだ。

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