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最後のタクシー

これは、ある地方都市で実際に聞いた話だ。その街は、夜になると人通りが少なくなり、タクシーを探すのが難しくなる。深夜0時を過ぎると、タクシーもほとんど走っていない。そんな時間にしか現れないという、少し不気味なタクシーの話を聞いた。


そのタクシーは、決まって深夜2時頃、郊外の道にだけ現れるらしい。真夜中に一台、暗闇の中をゆっくりと走っていることがある。古びた車体で、行灯はついているものの、どこか薄汚れていて、普段は街中で見かけないようなタイプの車だという。

乗り込んだ人の話によれば、そのタクシーには、妙に無表情な運転手が黙々とハンドルを握っているのだそうだ。運転手は話しかけてもほとんど答えないが、しっかりと目的地には連れて行ってくれるらしい。ただ、決まって「メーターは故障中」と言われ、料金はその場で適当な金額を請求される。


そして、不気味な話には続きがある。深夜にそのタクシーに乗った人が、翌日そのタクシー会社に「昨夜、郊外でタクシーに乗せてもらった」とお礼の電話をかけると、どの会社でも「そんなタクシーは走らせていない」と言われるのだという。実際に確認すると、その時刻にはどこにもタクシーは出ていなかったそうだ。

それでいて、そのタクシーは決して料金を踏み倒さない。乗った人が支払った金額が、必ず財布の中から消えている。だが、運転手の素性も、誰がその金を受け取っているのかも、わかっていない。


「深夜2時のタクシーにだけは気をつけろ」と、この街のタクシー運転手たちはよく言う。それはどうやら、亡くなったある運転手が夜な夜な郊外を走り続けているという噂なのだ。

だから、どうしても夜中にタクシーに乗らなければならないときは、何かがおかしいと思ったらすぐに降りるべきだ。特に、車内がやけに寒かったり、目的地に着いても運転手が「ここがどこかわかるか?」と聞いてきたら、その場で支払いをして降りることだ。

…そのタクシーは、きっと目的地に辿り着いた“つもり”で、どこかの道を今も走り続けているのだから。

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