空き部屋の「灯り」
これは、都内のとあるワンルームマンションに住んでいた友人から聞いた話だ。彼は仕事の都合で夜遅くに帰ることが多く、帰宅する頃にはすでに周囲の部屋の灯りが消えているのが普通だった。そんなある夜、彼がふとエレベーターを降りたときに、違和感を覚えた。
そのマンションの5階には彼の部屋といくつかの部屋があるが、なぜか廊下の突き当たりにある「505号室」だけは、深夜になってもいつも灯りがついている。特に気に留めていなかったが、ある時、エレベーターを降りるたびに505号室のドアの隙間から薄い光が漏れているのが気になるようになってきた。
それも不思議なことに、日中や休日にはその部屋は静まり返っており、誰も出入りしている様子がない。それでいて、深夜遅くに帰宅すると、必ず灯りがついているのだ。彼が管理人に尋ねたところ、その部屋は「空室」だと言われた。何度か気になって、夜遅くにそっと505号室のドアを覗いてみたが、誰かがいる気配はなく、ただ微かな灯りだけが漏れているのだという。
彼は徐々に不気味に感じ始めた。特に、ある晩のことが引き金となった。帰宅が遅くなり、エレベーターを降りると、505号室の灯りがさらに明るくなっているのに気づいた。まるで部屋の中に誰かがいるかのように影が動いている。思わず立ち止まったが、部屋の中から聞こえてくる「かすかな足音」に寒気が走った。
耐えきれなくなって、そのまま自室に入ったが、その夜は妙な不安に襲われ、なかなか眠れなかったという。
翌日、再び管理人に「505号室に住んでいる人がいるのか」と尋ねたが、「やはり誰も住んでいない」との答えだった。深夜に誰かが忍び込んでいるのではと不安になり、管理人に一緒に確認をしてもらったが、その時には部屋は真っ暗で、誰の痕跡もない。
それでも505号室の灯りは、深夜になるとまた漏れ出し、彼を待っているかのように光り続けていた。
それから数日後、彼はついに恐怖が限界に達し、そのマンションを引っ越すことにした。引越しの最終日、彼が部屋を出るときに、再びエレベーターの前で立ち止まった。505号室の前を通りがかると、そのドアがわずかに開いているのに気づいたのだ。
好奇心と恐怖が入り混じる中、そっとドアを覗き込むと、薄暗い部屋の奥に小さなライトが点いていた。その瞬間、ドアの隙間から何かがこちらを見ている気配を感じ、彼は即座に目を逸らし、そのままマンションを去った。
それ以来、彼はそのマンションに戻っていないが、時折夢の中で505号室のドアがゆっくり開き、暗がりの中から誰かが彼を見ているのを感じることがあるのだという。
あの灯りが、今もなお、彼を待っているかもしれないことを想像すると、身震いが止まらなくなる。
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