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ヒッピーの「消えるコミューン」

アメリカを旅していたとき、現地で知り合った年配の男性から、1970年代にヒッピーたちの間で広まっていた不思議な話を聞いた。それは、カリフォルニアの山奥に「消えるコミューン」があったというものだった。


その男性は当時若く、ヒッピーの文化に心酔していた。髪を伸ばし、仲間たちとキャンピングカーでアメリカ中を放浪しながら、自由を求めて生きていた。そんな生活の中で、彼らはたびたび噂を耳にしていた。山奥にある特定の場所に行くと、そこに「誰でも迎え入れてくれる」コミューンがあるというのだ。

その場所は決まっておらず、噂だけが流れていた。街の掲示板や聞き込みによって、場所が少しずつ異なる。ある時はカリフォルニアの山奥、またある時はオレゴンの森の中、そしてその次はニューメキシコの砂漠。だが、噂を追って実際に行ってみた人は、ある奇妙な体験をするという。


「消えるコミューン」は、あたりが霧に包まれるような山奥の場所にある。近くに来ると、ふと目の前に木造のゲートが現れ、その奥にはカラフルなペイントが施された小屋やテントが並んでいる。初めて訪れた者を温かく迎えるように、人々が音楽を奏でながら、穏やかな表情で手を振っているという。

その光景は、一見すると「愛と平和」のヒッピー文化そのものだ。だが、ゲートをくぐってそのコミューンに足を踏み入れた人の中には、「何かが違う」と感じる者がいたという。彼らはどこか人間らしさが欠けており、笑顔はあるものの、目には生気がなく、会話も不自然なほどゆっくりとしたトーンで行われるのだ。


そして一夜を共に過ごした後、夜が更けるにつれて、雰囲気が少しずつ変わっていくという。深夜になると、彼らの動きが一層ゆっくりになり、まるで何かに憑かれたように無表情で集会を始める。焚き火を囲んで座り、誰かが意味不明な言葉で歌い出し、それに全員がゆっくりと合わせて呟くように「調和する」らしい。

もし、その光景を「おかしい」と感じて早めに立ち去った者は、それ以上何も見ていない。しかし、最後までその集会に付き合ってしまった者は、朝を迎えることができなかったという。彼らの足跡は山奥に向かって続き、やがて途切れている。後日、そのコミューンの場所を確かめようと再度訪れても、そこには何もなかった。


年配の男性は言う。「あれは“消える”んだ。誰もが知ってるけど、誰も見つけられない。あそこに行った仲間は何人もいるけど、戻ってきた者はいない」と。

消えるコミューンは今もどこかで存在しているのだろうか。次に誰かが山奥で出会うとしたら、そのコミューンは「本当に彼を歓迎している」のかもしれない。

…ただし、そこに足を踏み入れたならば、「自分が何を求めて来たのか」忘れないようにすることだ。さもないと、もう二度と元の場所には戻れなくなるだろう。

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