不思議な街歩きシリーズ 『夜の捏ね屋と心のレシピ』 寧ろ、飲み物を持ち込んでください!?編
私は、徐々に眠気が出てきたので、初めて訪れた、捏ね屋だったけれど、熊さんのパンの出来栄えも気になったけれど、
朝になれば、職場に出勤もあるし、私は家に帰って少しでも眠ることにした。
そして、また、眠れない夜にこの店を訪れようと思った。
初めて捏ね屋を訪れてから、
一週間は、経過しただろうか。
再び、眠れない夜がやってきた。
ちょうど、タイミング良く、
次の日は、仕事が休みだった。
今夜は、お店の中をじっくり見ることが
できそうだ。
漆黒の海のような時間に、
捏ね屋を訪れると
前回同様、生地を捏ねている人は、
ガラス張りの向こうに
横一列に並んで生地を捏ねていた。
今回は、前回と違っていたことがあった。それは、二人で捏ねている人がいたことだった。
前回、ここに訪れた時、朝まで、熊さんのパン待ちの人等がいたけれど
朝まで店内に、人がいるということは、みんな水分補給はどうしているのだろうか?
私は、水筒をいつも持っているけれど、他の客はどうなんだろう?
店内を見渡してもカフェコーナーは
見当たらない。
いや、待って。
捏ね屋の角っこに、ハンドドリップコーヒーセットを持った高齢の紳士がいるではないか!
紳士の側には、小ぶりのテーブル、その上には、ハンドドリップコーヒーセットがあった。そして、椅子があって、それらは、小さなコーヒーコーナーとなっていた。
コーヒーコーナーには、
小さな看板があって、
「当店には、おいしいコーヒーがございますが、おすすめはいたしません」と書いてあった。
えっ!おすすめはしないって
どういうこと?
おすすめしない、紳士のおいしいコーヒーがとても気になって、
私は早速、「おすすめしない、おいしいコーヒー」を注文した。
私の注文を受けた紳士は、「当店のコーヒーはおいしいですが、カフェインで余計、眠れなくなります。それが、とても
心配です」と言った。
私は「明日は、仕事がお休みだから、眠れなくても大丈夫なんです」と答えた。
「そうなんですね。それなら、安心ですね」
紳士は、心底、安心した表情でとびきりおいしいコーヒーをゆっくりと丁寧に淹れてくれた。
とてもおいしいコーヒーを受け取り、
それを飲みながら、他の客の様子を見てみると、
私と同じように紳士のコーヒーを飲む者、
持ち込みのペットボトルや水筒の飲み物を飲む者がいた。
捏ね屋の店内には、シンプルで、センスの良い作り付けのテーブルと椅子があった。
それでも、足りない分は、それぞれの客が持ち込んだ折りたたみの椅子を使ってみんなくつろいでいた。ここ、捏ね屋は、相当、自由なお店だった。
【次回、完結予定】
「太陽が捏ね屋を訪れる時、生地の行方編へ続く」