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【コメディショート】 月明かりの下で踊るゾンビ

「しっ!さっきから、俺達、誰かにつけられてないか?」
パーティの盗賊のロイが、仲間達に小声で言った。
「それ、私も思ってた」と回復役のエマ。
「やはりそうだったか」とリーダーで戦士のアシュリー。
どこか遠くを見ている魔法使いのユーシス。

一行は、追手に気付かないふりをしながら、森の中を歩き続けた。

すると、段々独特な臭いを放つ存在が、微妙なスピードで背後から
近付いてくる感覚があった。

全員が緊張している中、魔法使いのユーシスは、ぽつりと「ゾンビ」と言った。

そう、パーティに近付いてきたのは、
メモのかけらを持っていたゾンビだった。本人も朽ちかけていて、メモも朽ちかけている。
しかも、何か様子もおかしい。

ゾンビなのに、こちらに一生懸命
メモを渡そうとするのだ。

「わ、分かった!腐臭がするから、少し離れてくれ!」と言って、パーティのリーダーであるアシュリーは、
メモを受け取った。

その間、心なしか、心細そうにゾンビは
その場で、ドロドロしながら、待っていた。

メモを読み進めた、アシュリー。

「なにー!!お前、ルミナス王国の''輝きの’’王女か?!」ゾンビは、ドロドロした手でぎこちなく丸を作った。

パーティ一同、魔法使いを除いて、
王女に対して「見る影もない…」と
訝しがって、ゾンビを見ていた。

その中で、ユーシスだけは、「そのゾンビ、溶けかけているけれど、ルミナス王国のティアラを身に着けている」と言った。
星の紋章を持つティアラは、間違いなくルミナス王国の物だった。

「それでメモの内容は、何て?」
パーティのメンバーは、興味津々である。

このやり取りの最中も辺りでは、ゾンビのドロドロが地面に流れていて、腐臭に包まれている。

「王様を助けてくれてありが…」前後の文章は溶けてしまっている。

このパーティは、所属ギルドの中では、ベテランとして、知られていて、以前、ルミナス王の護衛を頼まれたことがあったのだ。

元ルミナス王国の王女は、前後の経緯は分からないが、残念ながら命を落としてしまい、ゾンビとなり、ドロドロしながら必死にお礼を言いに来たのだ。

「エレナ王女、お気持ちは、しっかりと
承りました。それでは」

アシュリーと仲間達は、腐臭とドロドロに耐えられなくなり、元王女のお礼もそこそこに、一刻も早くその場を立ち去りたかったのだ。

パーティは、ゾンビになった、エレナ王女との仰天のやりとりに気を取られ、いつしか、気付かず、森を抜けて、山賊の多発する危険地帯に入り込んでしまっていたようだった。

山賊団に囲まれて、これは、形勢不利だなと全員が身構えた時、ゾンビの元王女が、山賊に驚き、突如、右に左に動き出して、何を思ったか、山賊団の中に飛び込んで行き、パニックからドロドロを撒き散らして、そのドロドロが山賊に当たり、山賊団は「臭い」と叫んだ。
さらに、ドロドロが、手や顔に当たった者は「焼けるように痛い」と山賊達は騒ぎ出した。

何やかやで、舞うように暴れるゾンビの元王女1人で、山賊団を追い払う結果となった。
そして、ゾンビは、パーティにお礼を伝え終わり、とぼどぼと来た道を戻って行こうと歩き出した。

その様子を見て、ユーシスが、「このゾンビの元王女様、パーティの戦力になりそう」
とつぶやいた。

そして、「元王女は、高名な僧侶や魔法使いに出会えば、ゾンビから人間に復活できないだろうか?」とボソボソ言った。

それを聞きつけたゾンビの元王女は、パーティのみんなに、ハグしようとドロドロとしながら、駆け寄ってきたが、全員、盗賊レベルの俊敏さで確実に避けた。

ここに、パーティ4人と元王女のゾンビの奇妙でちょっと臭うパーティが爆誕したのだった。 (了)