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イギリス不良貴族

父がロンドンに来たのは、前年結婚した姪に会うためだった。仕事で、ロンドンでの結婚式に出席できなかったので、お祝いを渡しにきたのだ。その結婚式では、私はとても大切な出会いをした。新郎側の遠縁に貴族がいると聞いていた。それが彼だった。あまり周りと打ち解けず、不健康そうな顔色で、ブヨブヨした感じ、というのが第一印象だった。彼は、シャンパンなどを飲まずに、ウェイターにペリエを頼んでいた。「ペリエにライムを絞ってもらえるかな。ありがとう。」落ち着いたクイーンズ・イングリッシュでそう頼んでいた。
その時‼️
今でもどうしてかわからないけれど、
私は、彼がアルコールの問題があったのだ‼️と理解した。なぜそう思ったのかわからない。ドラッグにも詳しくはない。だから、どうしてアルコールを飲むといけないのか、明確にはわからない。でも、その時なぜかそう直感した。
後に彼が説明してくれて、それは正しかったとわかった。彼は、子どもの頃から母親とは折り合いが合わず、父と祖母が大好きだった。ところが、離婚してほとんどパリに住むようになった父親が、交通事故でパリで亡くなってしまった。その悲しみが癒えないうちに、今度は祖母が亡くなった。イギリスは長子相続である。そもそも彼は一人っ子。愛する2人を失った上に、すべての責任が彼にのしかかってきて、彼は心のバランスを壊したのだ。普通なら心の支えになってほしい叔父や叔母に、財産を分割したり、年金をあげなくてはいけないのだから。年齢と財産が逆転してしまっている関係は辛いものだ。その辛さから逃げようと、ドラッグに逃げてしまった。お金は十分にある。働かなくてもいい身分。何もしなくても生きていけてしまうのは、逆に辛くもある。自分で何をやるか、人生の目的を見つけないといけないから。ボーディングスクールの友達が、彼を更生施設に入れてくれた。そこで治療を受け、社会復帰できるまで回復した。詳しくは聞かなかったけれど、アルコールを飲むと、自制心が弱まるから、そのドラッグに手を出したくなったりするのかもしれない。

その時、結婚式に出席していたのは、善良な市民と呼ぶべき人達で、私達だけが、ある感覚を共有する2人だった。

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