見出し画像

陶にしか語れない、解放と浄化。西條茜・神馬啓佑「a double blanket」 展

京都新聞 8月28日掲載

陶を用いる西條茜と、テキストや絵画で表現する神馬啓佑。二人はこの「a double blanket」 展」のためのテーマを探すため、ギャラリー2階にある美容室の顧客にインタビューを申し込んだ。女性客に「一番、大事なものを持ってきて欲しい」とお願いしたところ、彼女はその日になって「大切な人からもらったリコーダー(縦笛)を持参するつもりだったが、それを失くしていたことに気づいた」と言い、「そのことに、なんだかホッとした」とも告白したそうだ。西條はこれを聞き、「強くこだわっていたものを失うことで、自分を拘束していたものや依存に気づいて、同時に解放されたのではないか」と共感をおぼえ、それを制作に生かした。

 連結したふたつの輪の作品は拘束具をイメージしたものだが、焼くことで縮み、腕を縛る機能は失せた。スタンドのような作品に穿たれた二筋の窪みは西條が脚を圧し付けた跡。密着していた肉体の痕跡だけを残し、オブジェはぬけ空のような形で緑の釉薬を輝かせて自立している。白く丸い窪みが二つ並ぶ作品は骨盤のようにも見える。抱えていた内臓や胎児を放出してしまったかのような、空虚な清々しさを放っている。

 拘束や依存、そこからの解放というテーマを身体感覚に直結する造形に重ねることは、西條が追究してきた感覚に通じているが、今展では焼成というプロセスが通過儀礼や浄化とオーバーラップし、作品世界が深化して見えた。

 一方の神馬は、リコーダーを綴りと語源に還元し、女性が縦笛に宿していた執着や記憶を解体。言葉と絵画による作品に昇華させた。

 長引くコロナ禍による閉塞感や停滞。二人のアーティストはこの状況に「固執してきた価値からの解放」の兆しを察知し、そこからの転換を作品にあらわした。大言壮語や過剰な心象の吐露がアーティストの本文だった時代も、とうに転換した。(haku=寺町通四条下ル 29日まで)



いいなと思ったら応援しよう!