「質感」には、女流陶芸に一日の長がある
「質感」稲葉周子・打田翠・高橋奈己展 (艸居)
(2019年7月20日 京都新聞)
「質感」をテーマにした、女性三人の陶の作品展。稲葉周子は木の葉のような「葉器」シリーズを出品。葉の大きなうねりに沿って、葉脈がくっきりと盛り上がる。その力強い凹凸を、透明な釉薬のツヤが輝かせて、生命感がみなぎっている。
細かな砂で覆われたようなテクスチャーの作品は、打田翠。風合いのあたたかさに似合う有機的なフォルムは、手びねりで形作られた。地層のようなグラデーションは、モミガラと一緒に焼成することによって現れた、自然の色彩だ。
高橋奈己の作品は、花の蕾や種のような自然の形状をモチーフにした白磁だが、質感は、光を吸い込むような冷ややかなマットトーン。鋳込と削りによって造形のエッジが際立てられ、陰影がモノクローム写真のように静謐な印象となる。
それぞれ個性的な質感を操る作家たちだが、三人の作品は、おおらかに、あるいはひそやかに口を開けた器型をしていることで共通している。用途を持つことを拒絶しない作品は、観る者にくつろぎを与える。さらに、眼だけでなく指先や唇といった繊細な感覚器を通して鑑賞される器であるという意識がどこかにあるからこそ、作品は「触れてみたい」と思わせる官能性を放っているのだろう。
いまから約60年前、「女流陶芸」という団体が発足し、因習や古いしきたりに阻まれて、陶芸界で活躍することが難しかった女性を力づけてきた。今や女性の陶表現はこれまでにないほど活発で多様だ。そして、この展示が示しているように、質感の表現と感受性という点では、明らかに「女流」に、ー日の長がある。百貨店の化粧品売り場に並ぶ商品をご覧いただきたい。知的なマットトーンから、濡れたようなグロッシーなツヤ感まで、無限の質感がひしめき合っている。女性の質感への情熱は底なしであり、それは日常の喜びでもある。