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ドイツ語の名詞の性

ドイツ語を第二外国語として習う時、まず最初に衝撃を受けるのは名詞に性があるということではないでしょうか。英語と同系のゲルマン語派に属するとはいえ、英語はわずかな例外を除いて名詞の性を失ってしまいました。また、フランス語やイタリア語やスペイン語などのラテン語の系譜を引き継ぐいわゆるロマンス語派では名詞には男性・女性のみがあり、中性名詞はわずかな痕跡を残しているにすぎません。ところがドイツ語では男性・女性・中性の3つの性が健在で、中性がなくなりそうな気配も全くありません。

というわけで、ドイツ語の名詞を覚える際は、必ずその名詞の性を一緒に覚える必要があるわけです。

名詞の性の起源

名詞の性とはそもそも何なのか、というと、印欧語歴史比較言語学においては、もともとは「生あるもの」と「非生物」の分類から発生したのではないかと考えられています。「生あるもの」には多くの場合雌雄の違いがありますが、もともとはその区別は文法的な分類として確立されておらず、genus commune (共同性)とされており、「非生物」は genus neutrum (中性)であったことが、文献が残されている最古の印欧語であるヒッタイト語によって確認されています。

ヒッタイト語よりも若い印欧語であるサンスクリット語やギリシャ語、ラテン語などではすでに男性・女性・中性の3分類が文法的に確立されていますが、そのうちの女性の語尾は中性名詞の複数形から派生したと考えられています。

本来は、生き物を表す名詞に雌雄の違いを区別するために男性・女性で異なる語尾が付けられたと考えられるわけですが、それがどうして、非生物を指す名詞にも中性ではなく男性・女性が割り当てられるようになったのかについては実は謎です。

名詞の性をどう覚える?

成り立ちの経過はどうあれ、名詞に性はつきものとして覚えるしかありません。現在ではすでに論理的な理由などないので、なぜある名詞が女性で、ある名詞が男性または中性なのかと考えること自体が愚問です。

たとえば食器のナイフ・フォーク・スプーンは、das Messer(中性)、die Gabel(女性)、der Löffel(スプーン)と見事に全部違う性ですが、そこに深い理由はないのです。

日本語の「てにをは」はなぜ「てにをは」なのかと問うようなものです。

どう覚えるか、それは、各名詞を必ず定冠詞と共に覚える以外ありません。ドイツ人も実はそうしてます。

また、名詞の性はそれが指す対象物とも深く結びついているため、たとえそれが表面上発言されていなくても、性が意識されます。たとえば、ケーキは der Kuchen と男性名詞です。目の前にケーキがあるとして、それを指して「それ美味しそうね」「それどこで買ったの」などと言う場合、必然的に男性扱いとなり、「Der sieht lecker aus」、「Wo hast du den(または ihn)gekauft?」となります。

少し話が横道にそれましたが、名詞の性に関して論理的な根拠はないにせよ、一応原則のようなものはあります。

人間を指す名詞であれば基本的に自然の性に従います。たとえば学生が男性であれば der Stundent 女性であれば die Studentin となります。これは日本人でも納得のできる区別でしょう。

でも、子どもの場合は das Kind。これは両性含めてますから中性でもまだわかりますが、性がはっきりしている「女の子」の場合も das Mädchen。そして、成人しているのに das Weib となるともう何だか分からなくなるのではないでしょうか。(女性を中性扱いするのは女性差別と現代では解釈されがちですが、das Weib にはもっと別の古い語源による理由がありますが、ここでは長くなるので割愛します。)

また、名詞の内容で性が決まっていることもあります。

男性名詞

季節、月の名前、曜日:der Sommer, der Herbst, der Mai, der September, der Mittwoch

方向、風、降水:der Osten, der Süden, der Monsun, der Föhn, der Regen, der Schnee

アルコールのブランド:der Cognac, der Wodka, der Rum

車のブランド:der Opel, der Golf, der Skoda

女性名詞

船の名前:die Bremen, die Europa, die Gorch Fock, die Kaiser Wilhelm

バイクのブランド:die Honda, die Kawasaki, die BMW

タバコのブランド:die Havanna, die Lord Extra, die Camel, die Reval

名詞化した数字:die Eins, die Fünf, die Dreizehn

中性名詞

ホテルの名前:das Hilton, das Holiday Inn

都市名:das alte Berlin, das antike Rom

国名または地域名:das sonnige Italien, das moderne Japan, das schöne Elsass (例外:die Schweiz, die Türkei)

名詞化したアルファベット:das A und O, das große D, das X

それ以外の非生物や抽象概念を指す名詞では、多くの場合、その語尾で性が特定できます。

男性語尾

-ant: Lieferant, Spekulant, Mandant, Fabrikant

-ent: Präsident, Student, Agent, Patient, Interessent (例外:das Talent)

-ich: Teppich, Kranich, Gänserich, Pfirsich, Fittich

-iker: Chemiker, Elektriker, Mechaniker, Politiker

-ismus: Nationalismus, Kapitalismus, Pessimismus, Egoismus

-ist: Realist, Spezialist, Journalist, Tourist, Optimist

-or: Direktor, Autor, Moderator, Katalysator, Monitor, Reaktor (例外:das Labor)

女性語尾

-anz: Bilanz, Allianz, Toleranz, Distanz, Arroganz

-ei: Rederei, Schlägerei, Bäckerei, Bücherei

-enz: Tendenz, Intelligenz, Prominenz, Konferenz

-heit: Wahrheit, Sicherheit, Krankheit, Freiheit

-ie[i:]: Energie, Ökonomie, Fotografie, Demokratie

-ie[ɪə] : Studie, Folie, Linie, Prämie, Serie, Aktie

-(ig)keit: Geschwindigkeit, Müdigkeit, Einsamkeit

-ik: Technik, Klinik, Fabrik, Politik, Statistik

-in: Ärztin, Nachbarin, Sekretärin, Studentin

-ion: Region, Diskussion, Information, Position

-ität: Realität, Stabilität, Aktivität, Humanität

-schaft: Gesellschaft, Erbschaft, Landschaft, Mannschaft

-ung: Werbung, Übung, Meinung, Kleidung, Bewegung

-ur: Figur, Zensur, Natur, Reparatur, Temperatur

中性語尾

-chen, -lein: Mädchen, Häuschen, Plätzchen, Fräulein, Büchlein

-ment: Medikament, Instrument, Dokument, Argument, Element

-tum: Eigentum, Christentum, Herzogtum, Brauchtum (例外:der Reichtum, der Irrtum)

-um: Datum, Stadium, Podium, Gremium, Publikum

以上が原則ですが、それ自体にすでに例外がありますし、ものによっては男性・中性両方のバージョンがあったり(der/das Biotop, der/das Teil, das/der Virus など)、性の違いで意味が変わったり(der Gehalt 含有量、内容 vs.das Gehalt 給料、der See 湖 vs. die See 海など)することもあるので、残念ながらかなりやっかいです。

外来語の扱い

外来語であってもドイツ語の中に入る以上は性が割り当てられます。元の言語に性があれば原則的にその性を引き継ぎます。ラテン語起源の -ant/-anz, -ent/-enz, -ie, -ik/-iker, -ion, -ismus, -ist, -ität, -ur, -ment, -um などはラテン語の性がそのままドイツ語に引き継がれています。これらの語尾の性は定着してしまっているので、たとえば語尾が -ment であれば、たとえフランス語の Engagement [ɑ̃ɡaʒ(ə)ˈmɑ̃ː] が男性名詞であろうと、英語の Management [ˈmɛnɪtʃmənt] が無性であろうと、ドイツ語では中性となり、発音だけが原語通りに(またはそれに近く)なります。

元の言語に性がない場合は、その言葉に該当するドイツ語の名詞またはその言葉から連想される物や分類の上位概念などを表すドイツ語名詞の性を割り当てます。

たとえば、「柿」は木の実なので、die Frucht の性を取って die Kaki となります。「梨」の場合は die Frucht でもあり、西洋梨 die Birne の一種でもあるということで、die Nashi となりますが、die Nashi-Birne と言うことが多く、「梨・梨」としか聞こえないので日本人にはちょっと笑えますね。

そういう該当物や連想概念があてられない場合は中性になります。たとえば、根付はドイツの東洋美術コレクターには非常に人気のあるアイテムですが、これは das Netsuke です。たまに、「フィギュア die Figur」の一種として die Netsuke と言う場合もありますが。

eメールにも似たような性の揺れがあり、連想が働かない das Email と 電子郵便/通知 die elektronische Post/Nachricht と解釈した die Email があります。das Email を使うのは年配の方が多く、現在では女性名詞の方が圧倒的に優勢です。

まとめ

名詞の性の割り当ては、自然の性に従っている場合を除いてすべて論理的な根拠はなく、名詞の指す内容や語尾で性を特定することはある程度できるものの、基本的にはそれぞれの名詞を覚える際に性を表す定冠詞を一緒に覚える以外ありません。

性が変わると意味が変わる名詞もあるので、その場合は特に注意して記憶する必要があります。

意味は変わらなくても性に揺れがある場合もあり、特に外来語で、ドイツ語圏に相当するものがない場合、そうした揺れが生じやすくなります。

一筋縄ではいかないテーマですので、申し訳ありませんが(笑)、頑張って学んでください。

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