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僕はやっぱり運動会が好きじゃない


今日は小学校の運動会だ。


僕は、お母さんに「行ってみる?」って聞かれた時、「うん」って返事をした。
その時はさ、本当に行ってみようかな、って思ったんだ。
数日前のことだ。


昨日、担任の先生が家に来てくれた。
金曜日の夕方にいつも僕に会いに来てくれる。
実は、出るのがちょっとめんどくさい。
だって先生が来てくれる時って、僕はだいたいテレビ見てるからさ。
本当は・・・テレビ見ていたんだけど、お母さんが「ほら!先生きたよ!」って、なんか圧かけてくるから、仕方なくテレビ中断して玄関先に出て行くんだ。

先生も言った。「明日、運動会待ってるね!」って。
とりあえず、「うん」って返事をした。


今日がその運動会だ。


朝起きて、いつも通りテレビを見ていた。


お母さんが言った。


「9時頃、行くからね〜」


9時・・・・ってあとどのくらいなんだろう。
僕はまだ時計が読めない。
何度教えてもらっても、時計の針を見ていると頭がぐちゃぐちゃになっちゃうんだ。

僕はわかんないけど、とりあえず「わかった」と、返事をした。


お母さんはいつも朝忙しそうだ。

話しかけるといつも嫌な顔される。
そんな嫌な顔しなくても。
ただ、面白いYouTubeがあったからお母さんにも見て欲しかっただけなのに。

めっちゃいいところで「朝ごはん」と言われた。めっちゃいいところなのに。
僕がなかなかテレビをやめないでいると、ズカズカお母さんが近くにやってきて、こう言うんだ。


「あとどのくらい!?」


僕は時間がわからないから黙っていると、お母さんはリモコンのボタンをポチッと押して、あと動画がどのくらいあるのかチェックする。それで、その時間が短ければ「じゃあ、これが終わったらね!」と言ってくれるけど、長いと「あと30分もあるじゃん!もう終わりーーー!」と、お得意の圧をかけてくる。今日の動画は残念ながら長かったみたいで、途中でやめなくちゃいけなかった。

チェッ。


今日は運動会だ。


お母さんがいつもよりバタついている。


予定がある朝は、いつもより増してお母さんはバタバタする。
それは、少なからず僕に伝わってきて、僕の心はザワザワしてくる。
だから、なんだか体も重たくなってくるんだ。
なかなか動けない僕を、お母さんが、チラ見する。

何にも言わないけどさ、そのチラ見、何もかも僕に伝わっちゃってますから。
溢れ出ちゃってますから。


僕は、朝ごはんを食べた。
白いご飯ちょっとだけ。
朝はあんまりお腹空かないんだ。


今、何時だろう。


お母さんは「ほら、9時に行くからね」と、ジャブを打ってくる。
だから僕は時計がわかんないんだってば。


夏休みからタブレットでのゲームが解禁になった。
30分ゲームをするには、朝の支度を全て終わらせなければならない。
それがルール。
ルールだから仕方ない。
運動会とかそんなんより、今はゲームだ。ゲームがやりたい。
僕はゲームをするためにちゃちゃっと身支度を済ませた。
お母さんは、やることやれば割と何も言わない。

お母さんはまだバタバタしている。


あっという間にゲームの時間が終わってしまった。30分なんてあっという間だ。


チェッ。


僕は、最近裁縫を覚えた。
何かやりたくなってきた。


「お母さん、何か縫いたい。」


バタバタしているお母さんにそう言うと、


「えっ?!今から?9時に行くよ?すぐやめられるの?」

「うん、やめるから。」


時間わかんないけど、とりあえず僕はそう返事をした。


なんで行く前に始めるかなーーーとかなんとかグチグチ言いながらも、お母さんは裁縫セットと布をテーブルの上に置いてくれた。
ぜーんぶ聞こえちゃってますからね、僕に。


僕は、いつも突然何かを作りたくなるんだ。
今なんだ、今作りたい。
大人はさすぐに「あとで作ればいいじゃん」とか言うけど、今なんだよ、今作りたいの僕は。


僕は、針に糸を通せても玉結びができない。


「お母さん、玉結びしてー。」

バタバタしているお母さんにそう言うと、無言で玉結びしてくれた。

無言って、怖えぇ。

僕は、水玉模様のキルト布でおにぎりを縫った。なかなかうまくいかない。あ、糸がからまっちゃった。


「お母さん、糸がからまった。」

バタバタしているお母さんに助けを求めると、明らかにイライラした顔で、

「ねぇ、あと15分くらいで行くよ?針がてっぺんだよ?やめれるんだよね??」

「うん。」


針がてっぺんか。それなら僕にもわかる。結構すぐだな。お母さんはブツブツ言いながらも絡まった糸を解いてくれた。

僕は夢中になっておにぎりを縫った。
僕はこの時間が好きだ。楽しい。


「はい!9時だよー行くよー」


僕は、胸がドキッとした。「行くよー」って言葉を聞くと、心の中がモヤモヤドキドキしてくるんだ。


「えー、、おにぎり作りたかった。」

「・・・9時に行くって言ったじゃん!」

「だって、これ、作りたいーー。」


僕の中でだんだんモヤモヤが強くなってきた。
お母さんの顔、また、曇ってきたなぁ。
でも、モヤモヤするんだ。


「やだぁ。作りたいぃぃ。」


僕は、おにぎりが作りたいんだ。今。


「じゃあ、それ作ったら行こう。待ってるから。」

僕は、ホッとした。
僕は、おにぎりを縫った。


「ねぇ、、もう9時半だよ?おにぎり仕上げてからじゃ、運動会終わっちゃうよ?」


僕は、また胸がモヤモヤドキドキしてきた。


「もうやめとく?」


その言葉を聞くと、それも嫌なんだ。
僕は、黙っていた。


「どうする?」


急かさないで。
僕は、黙っていた。


「運動会、午前中で終わるからさ、作ってからじゃ・・・」

「わかった!行く!!!!!」


僕は、お母さんの言葉を遮って、行くと言ってしまった。でも、心の中はモヤモヤしたままだった。

玄関で靴を履こうとした。
僕のモヤモヤがどんどんどんどん膨れて大きくなって、もうなんだか嫌になってきた。


「やっぱり、行きたくない。」


僕は、お母さんにそう伝えた。
お母さんは、黙っていた。
黙っていたけど、でも、わかっちゃうんだ。お母さんの気持ち。


「いいよ。行かなくても。」


そんな風にお母さんに言われると、それも嫌になってくる。


「やだぁぁぁ」


もう僕は頭の中がぐちゃぐちゃになってきて、嫌だと言うしかできなくなってきた。モヤモヤする。モヤモヤする。心が落ち着かない。どうしたらいいのかわかんない。わかんない。わかんない。


お父さんが、「いったん中に入ろう。ゆっくり話そう」と、優しく言ってくれた。
そして、落ち着かない僕を優しく膝の上にのせて抱きしめてくれたんだ。

お母さんは・・・

何も言わずに、2階の寝室に行っちゃった。
何も言わなかったけど、僕には、わかるんだ。
お母さん、また、泣いてるのかな。

お父さんはずっとずっと抱きしめてくれた。
だんだん気持ちが落ち着いてきた。
でも、どうしても、モヤモヤするんだ。嫌なんだ。お父さんは優しく「何で?」って聞くけど、僕にもわからないんだ。嫌なもんは嫌なんだ。

お母さんが、降りてきた。
泣いてないけど、なんだか、悲しそうだ。
無言でお茶碗洗ってる。

お父さんが、僕を抱っこしてソファまで運んでくれた。弟がテレビを見ていたので、僕も一緒にテレビを見た。

キッチンで、なんか、お父さんとお母さんが話してる。何話してるのかな。

すると、お母さんは、「ちょっと出かけてくる」と言って、玄関に向かった。靴を履いているようだ。どこに行くんだろう。僕は焦った。いいのか?このままでいいのか?お母さん行っちゃうぞ。ほんとにいいのか?


「行く!運動会行く!!」


僕は、とっさにそんなことを叫んでいた。

僕は、靴を履き、ドアを開け、外に出た。
とってもいい天気だ。

お母さんは、まだ、僕の目を見てくれない。
お母さんは「お母さんも人間だからさ!気持ちが整うのに時間がかかるの!」ってよく言ってる。だから、たぶん、それなんだと思う。

僕はお父さんと手を繋いで歩いた。
カシャ。
後ろからお母さんが僕たちの後ろ姿を写真に撮っていた。

「いい後ろ姿だったから!」

と、言って笑っていた。
よかった。気持ちが整ってきたみたい。


小学校に着いた。
また、胸がドキドキしてきた。

運動場から声が聞こえてくる。

弟が走り出した。
その後をお母さんが追っかける。

全くもう。僕がこんなにドキドキしてるっていうのにさ。


運動場に着くと、大勢の人たちで溢れかえっていた。

人が多いなぁ。
ざわざわしてる。
落ち着かない。

運動場の真ん中では、長い棒をみんなで持って走って競争していた。

僕、こういうの苦手。
競争とかほんと無理。
みんなに見られるのとかさ、やだ。

なんか、帰りたくなってきたなぁ。

お母さんは、なんだか楽しそうだ。
幼馴染のHちゃんを探してるみたい。

遠くから先生が走ってきた。
先生も僕の姿を見て嬉しそうだ。

みんな、僕が運動会に行くと喜ぶ。

「あっ!次は1、2年生のダンスだ!Hちゃん踊るよ!」

プログラムを見ていたお母さんが嬉しそうに僕に言ったけど、正直言って、Hちゃんが出てたとしてもダンスとかあんまり興味ないんだよね。


「○さん、あっちの生徒席行って見ようよ。」

「あっちの方がHちゃん見えるかもよ!」


先生もお母さんもそう言って歩き出しちゃったから、僕はあんまり行きたくなかったけど、仕方なくついて行った。


観客席と、生徒席の間にロープが張ってあった。
先生はロープを上げて、ロープの向こう側に僕を誘うんだけど、、、足が動かないんだ。ロープの向こう側は、緊張するよ。こっち側にいたい。


1、2年生のダンスが始まった。
曲は、どこかで聞いたことがある曲だった。
みんな手にキラキラしたものをつけて踊ってる。
苦手だ。
みんな見ている中で踊るとか、恥ずかしい。


「あっ!Hちゃんいたいた!ほら!紫色の靴下の!ほら!見える??」


お母さんは、とっても楽しそうだ。


ダンスが終わり、先生がまたロープの向こう側に僕を誘う。
全く、しつこいったらないよ。
僕は渋々ロープの中に入った。


胸がギュンッてなった。

お母さんが「いってらっしゃい」と、僕の頭を優しく撫でた。


先生と手を繋いで、僕の席まで行った。
Hちゃんがいた。

「○くんだ!」

Hちゃんが僕のところに来てくれた。
他のみんなは知らない子ばかりだ。
たくさん人がいる。
落ち着かない。
ドキドキする。
早くロープの外に出たい。

「○くーん!こっち向いて!」

振り向くと、Hちゃんのお母さんがカメラを構えていた。
Hちゃんは僕の横でにっこり笑ってピースサインをしていたけど、僕は緊張してそれどころじゃなかった。


もう、いい。


「あっちに戻りたい。」

僕は先生にそう言って、先生を置いてお母さんたちがいる所に向かった。
僕の後ろを先生が追いかけてくる。

ドキドキする。
早く、早く、お母さんのいる所に行きたい。

僕は早歩きで歩いた。

お母さんとお父さんが見えてきた。
優しい笑顔で僕を見ている。
安心する。

僕は、ロープをくぐり、ロープの外側に出た。


心の底から、ホッとした。
我ながら、頑張ったと思う。


もう、疲れた。
もう、いい。


「帰りたい。」


お母さんとお父さんにそう言ったら、

「うん。帰ろっか。」


と、2人とも優しく僕の頭を撫でてくれた。



帰りに、コンビニに寄ってお昼ごはんとアイスクリームを買った。
家について、すぐに「アイスが食べたい!」と言ったら、「いいよー」って言ってくれた。いつもだったら「お昼ごはん食べてからね!」とか言われるのに。
やっぱり運動会って特別なんだなって思った。

僕は、チョコレートがかかったソフトクリームを食べた。
めちゃくちゃ美味しかった。

僕、頑張ったからね。

お母さんも先生も、僕が運動会行くと嬉しそうだったし、
お昼ごはんの前に食べるアイスクリームは格別美味しいんだけど、


でも


やっぱり僕は運動会が好きじゃないや。




土曜日は、小学校の運動会だった。

きっと、出かける前に「儀式」があるんだろうな、って覚悟していた。

先日、こんな記事を書いた。



出発間際の「やっぱり行くのやめる」は、息子の大切な儀式なんだと。
「待つ」ことが大切なんだと。

そんな記事を書いたばかりなのに、私は、息子を前にものすごくイラついてしまった。
その場に居られず、夫に対応を任せて、私は寝室にこもった。

noteに綴ったことと、実際の自分にギャップがありすぎて情けなくなった。

なんなん、自分。

だから、息子になりきって書いてみようと思った。

こうして書いてみると、見事にNGワードNG対応連発で自分に引いた笑。


と同時に、こんなにも息子のことが書けるんだとも思った。

なのに、なんでだろうね。
あんな態度とっちゃうのは。


息子よ、お母さんは、君になってみたぞ。
いつも自分の気持ちを素直に出してくれてありがとう。
だからこそ、こうやって書けたんだと思う。

これからも、嫌なものは嫌だ、好きなものは好きだ、やりたいやりたくない、
僕は僕だ、と出して出して出しまくるんだ。

お母さん、大変だけど、すぐ寝室行っちゃうけど、決してあなたから逃げない。
あなたをひとりにはしない。

あなたが自分の力で強く生きていけるように


あなたが、いいよ、って言うその時まで


繋いだその手を離さない。


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