
道標を失った僕に居場所はあるのか
「この券は一生に一度、今しか使えません」
そう言って渡されたピカピカの券、行き先はまだ書かれていない。
僕はどこに行こうかと悩んだ。
カバンからボロボロの地図を出す。
いつの日かつけた宝箱の印には大きなバツがついている。
そこへ至る道もかすれていてよく分からない。
どうしたものかと窓を見るが、部屋の中が明るくて何も見えなかった。
『私はもっと北へ行ってみたい』
『俺はあったかいところがいいなぁ』
周りの人達は次々と行き先を決めて、僕はその人達の声に呑まれた。
頭がぼあぼあする。視界も。空気も。
あれ僕はどこに行きたいの?
列に並べばいいのかな?
なんでここに居るの?
気が狂いそうになるのを必死に堪えて券を握り締めた。
ぎゅっと。ぎゅっと。
列が進んで僕の番が来た。
『どちらに向かわれますか?』
「えっと、えっと」
考えていたことを話すんだ。
『条件はございますか?』
「ぼ、僕は...」
次の言葉が口から出て来なかった。
『こちらなんかおすすめですよ?』
「あ、あの」
あぁ、あああぁ、それ以上、聞かないでくれ。
僕は逃げた。
僕を呑み込む声から離れたかったのだ。
僕が口にすることで呑み込まれると思ったのだ。
だから走って...
走って走って走って...
ここはどこだろうか。
体が強張っている。
熱いけど寒い。
ぼあぼあしたままの視界。
でもそこに、すっと景色が入ってきた。
星空が広がって月が淡く周囲を照らしている。
その光を感じて僕の体から力が抜ける。
風が吹いて木が揺れる音は苦しみを和らげてくれる。
ふと開いた手を見ると、ずっと握りしめていた券が汗で蒸れてしわくちゃになっていた。
こんなになっても使えるのだろうか?
そんなことはどうでも良かった。
後ろを振り返ると街の明かりが見える。
ここからでも見えるんだなぁ。
僕はもう少しここにいることにした。
いつ街へ戻るかは分からない。
でも今はここに居たい。
ここに居よう。