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「ゆかた」という名の夏きもの
暑い日が続きますね。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
毎年この時期になると、着物好きの間で盛り上がるのが「ゆかたはきものか否か?」という話題です。
「きもの」と「ゆかた」はどう違うの?
人によってさまざまなご意見があると思いますが、わたしが考える「ゆかた」と「きもの」の違いは、その着こなし(コーディネート)にあります。
「きもの」:長襦袢を着て、足袋をはき、草履をはく。
「ゆかた」:素肌または肌着の上に直接着て、裸足に下駄をはく。
現代では「きもの」も「ゆかた」も、仕立て上がりのかたちが同じですよね。
じゃあ、生地の素材や織り方の問題なのか?
木綿や化繊であれば「ゆかた」で、絹であれば「きもの」なのか?
以前、「ふだん着・街着のススメ! 木綿着物編」で書いたように、もともと「きもの」は麻や木綿などさまざまな植物繊維を使って作られてきた歴史があり、「絹織物だけが着物」であると考えるのは間違いです。
重要なのは、何の生地を使っているかではなく、どう着るか、つまり着こなし(コーディネート)だと思います。
「ゆかた」なのか「きもの」なのか、一番重要な違いは、下に襦袢を着るかどうかです。
違いがひと目で分かるポイントは首元で、襦袢の半衿がのぞいて見えれば、その人は「きもの」として着ている、と判断できます。
じゃあ、店頭で「浴衣」という商品名で売られている品でも、下に襦袢を着れば「きもの」になっちゃうの?
そうです、「きもの」になっちゃうんです。
何をどう着るかは本人の自由なので、「浴衣」として売られていた商品であっても、着こなし次第で「夏きもの」になるわけですね。
一方、「ゆかた」を「浴衣」らしく着るとなると、肌着の上に直接着て、裸足に下駄をはくスタイルが一般的です。
花火大会や夏祭り、盆踊りなどに行くときは、「浴衣」らしい着こなしの方が合っているのではないかと思います。
祭事の舞手(踊り手)や笛役、太鼓役を務める場合は、「ゆかた」は肌着の上に直接着て、足元だけ裸足ではなく、足袋に草履をはいていますね。
「夏きもの」の代わりとしての「ゆかた」①(綿麻ゆかた)
「ゆかた」のルーツは、湯帷子と呼ばれる入浴用の衣服だったという歴史をご存知のかたは多いと思います。
「ゆかたはきものではない」とおっしゃるかたは、「浴衣は素肌に直接着るもの」という大前提があって、その上で「浴衣は湯上り着」「浴衣は部屋着・寝間着」というイメージが強いのでしょうね。
しかし現代では、「浴衣」という商品名で売られていても、素肌に直接着ることが不可能な「ゆかた」というものが存在します。
それは、透ける生地で作られている「ゆかた」です。
綿麻や綿絽の「ゆかた」はかなり透けるので、下に襦袢を着ることを前提として作られているのです。
実際に着たところをいくつかご紹介しますね。
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こちらは、スタイリストの大森伃佑子さんがディレクターを務めるDOUBLE MAISONというブランドの「綿麻ゆかた」です。
緯糸に麻、経糸に綿を用いて織られた、透け感のある涼しい生地です。
ネイビーの地色に黄色い太陽と鶏の絵柄。
仕立て上がった状態で売られている、いわゆる「プレタゆかた」です。
この日は十月初旬でしたが暑かったので、この「綿麻ゆかた」を夏きものスタイルで着ていました。
レースの半衿をつけたアイスコットン素材の長襦袢を着て、名古屋帯をお太鼓に結び、夏用の帯揚げ・帯締めを締めて、足袋に草履をはいています。
この名古屋帯は、京都の遊禅庵さんが展開しているWA・KKAというブランドのお品です。
公式オンラインショップを見たところ、色違いの同じ商品がまだ売られていました。
ほら、着装モデルさんも下に襦袢を着ていますね。ストライプ柄の半衿がかわいいです。
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公式で推奨されている着方がこの通りなのです。
これって、「ゆかた」という商品名で売るのは無理があるのでは?
どうして「プレタ夏きもの」として売らないのでしょうか……
「夏きもの」の代わりとしての「ゆかた」②(綿絽ゆかた)
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こちらは京都にある紫織庵さんの「綿絽ゆかた」です。
「絽」というのは、緯糸をわざと数本おきにして隙間を作りながら織り上げる技法のことです。
ひと言で言うと、一定間隔で隙間がある織物です。
夏のお茶席などでは、絹糸を絽に織り上げたきものが定番ですね。
絽はあくまで織物の種類なので、絽の帯、絽の半衿などもあります。
木綿の糸を絽に織り上げた綿絽は、暑い時季の普段着用きものとしておすすめの素材です。
紫織庵さんの「綿絽ゆかた」は、大正時代から昭和初期の図案を復刻し、手仕事の型友禅で染め上げた「京友禅ゆかた」です。
反物からの仕立てたお品なので、着心地がよく、とても愛用しております。
この日のコーデは、いつものアイスコットンの長襦袢の上に、紫織庵さんの「綿絽ゆかた」を着て、夏用の名古屋帯をお太鼓に結び、夏用の帯揚げ・帯締め、足袋に草履でした。
この名古屋帯は、博多織の井上絹織さんが出している「結女彩」というブランドの紗八寸名古屋帯です。
「紗」というのは、絽よりもさらに透ける織り方のことです。
ちなみに、紫織庵さんの公式オンラインショップでも、着装モデルさんは完全に夏きものスタイルで着ていました。
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これ、わたしが持っているお品と柄違いの同じ「ゆかた」です。
このモデルさんの着こなしを見て、「浴衣で外出するなんてみっともない!」と怒るかたはいないでしょう。
まとめ
「ゆかた」は、時代が下るにつれ、湯浴み着から湯上り着(バスローブ)へと役割が変わり、やがて部屋着・寝間着(パジャマ)となり、現代では街着・外出着まで格上げされた衣服です。
湯帷子の変遷:
湯浴み着→湯上り着→部屋着・寝間着→外出着(イマココ!)
温泉旅館の「ゆかた」は、バスローブやパジャマだった頃の「浴衣」の名残りを残していると言えますね。
こうした「ゆかた」の変遷は、服飾史で言うと、下位だったものが上位のものへと変化する「形式昇格の原則」にあてはまるそうです。
長襦袢を着て、名古屋帯を結び、帯揚げ・帯締めまで締めて着る「ゆかた」は、「ゆかた」という名の「夏きもの」だと言えます。
女性雑誌を見ると、売り手側が「夏きものの代わり」として「ゆかた」の格上げを積極的に行っていることが分かります。
動きやすく快適に過ごせるゆかたは、夏のきもの暮らしにぴったり。
ワンランク上の装いを目指すなら、上質な素材と伝統の技が生き、夏きものの代わりにもなる本格派のゆかたがおすすめです。
じゃあ、なぜ綿絽や綿紅梅、綿楊柳、綿麻など透ける素材の「ゆかた」は、普段着用の夏きものとしてではなく、「ゆかた」という商品名で売り出しているのでしょうか?
「上質なゆかた」「本格派のゆかた」「ゆかたで銀ぶら」といった惹句で、わざわざ「ゆかた」のイメージアップを図るのはなぜなのか?
それはおそらく、「夏きもの」と商品名をつけると、敷居が高いイメージになると考えてのことだと思います。
売り手側は、「ゆかた」だったらお客さんに手にとってもらえそうだけど、「夏きもの」と言ったら敬遠されてしまうのでは、と考えているのでしょうね。
だから、本来は「普段着用の夏きもの」と呼ぶべきものを意図的に「ゆかた」と呼ぶことで、「夏きもの」の格下げをしているわけです。
「形式昇格の原則」の逆パターンと言えます。
近い将来、「ゆかた」という言葉の指す範囲がどんどん拡大していったら、伊勢木綿など地厚な生地の木綿きものは「春秋のゆかた」、ウールきものは「冬のゆかた」と呼ばれるようになるかもしれませんね。
とは言え、「ゆかた」らしい着方ができない、下に襦袢を着ることを前提に作られている「ゆかた」を、何の説明も無しに「ゆかた」として売ることは、消費者にとって逆に不親切ではないのか、と思ったりします。
実店舗であれば、推奨される着方の説明を受けることができますが、オンラインショップの場合は、そこらへんが説明不足です。
着装モデルさんの着姿を見てお察しください、というのは初心者には難しいように思いますね。
色柄が気に入ってネット通販で「ゆかた」を購入したけど、実際に届いてみたら思ってた以上に透け透けだった! どうしよう! となったら……
最近はTシャツ感覚で着られる長襦袢があるので、安心してください。
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くるりさんの「前開きTシャツ襦袢」は、衿芯を入れる必要がなく、前ボタンを留めるだけで衿元がピシッと決まるので、初心者さんに大変おすすめです。
昨年のきものサローネで出店されているのを見て、これは便利! と感動してですね、わたしも色違いの同じお品を持っています。
こういうプレタ長襦袢は、たかはしきもの工房さんの「満点スリップ」とか、WA・KKAさんの「き楽っく」など、さまざまなアイテムがありますよ。
どれもネット通販で購入できるので、呉服店や着物専門店は敷居が高そうで足を踏み入れるのを躊躇する、といったかたもお買い物ができます。
夏のおしゃれとして、自由に「ゆかた」を楽しんでもらえたらと思います。
最後までお読みくださり、どうもありがとうございます。