この手の体験ははじめてだった「はじめての」-読書エッセイ
読書レビューや本の紹介を見ていると、新しい読書体験!などといった表現に出会う。本を読んで感銘を受けてみたり、しかけに驚いたり、難しすぎて挫折してみたりといろいろな気持ちを読書から得てはいたけれど、この手の体験ははじめてだった、それこそ「はじめての」読書体験(帯の後ろに書いてあります)。
YOASOBIを初めて知ったのは、「夜に駆ける」が流行っているというのを小学3年生だった長女から聞いたときだった。子どもたちは学校からいろんな流行や新しいものを家に輸入してくる。その先駆けだった。
「夜に駆ける」という曲は自殺をテーマにしたものだという平べったい情報を得たわたしは、否定こそしなかったもの『子どもに聞かせたくない』と思っていた。流行っていたのでメロディラインや声の感じは耳に入っていたけれどなんていったって自殺の曲だ、わたしの世界には入れたくない。
学校から輸入してくるなんて、、、子どもの世界が広がっていくことは喜ばしいことだが、そういうのはいいんだよという気持ち。
自殺のYOASOBIというもうどうしようもない第一印象をあたえてしまったものだから、忌み嫌いせすらもせずスルーしてきていた。
ある日、なんの掛け違いなのかYouTubeでYOASOBIのボーカルが一発撮りでおそらくおうちで歌っている「夜に駆ける」の動画を見たというか聞いた。びっくりした、透き通る声に心が震えた(物理的に震えていたのではないか!?)。自殺の歌のグループという偏見は瞬く間に消えて、そこからYOASOBIの楽曲をYouTubeで端から聞いた。見た。
小説をもとに描かれたという曲たちは今まで聞いたことのあるそれとは違う音楽で、歌詞を目で追いながら聞くと本だ。聞いた後に残るものは本を読んだ後に感じるそれだ。読後感ならぬ聴後感とでも言おうか。
家から外に出た子らにより、各自の持ち場から様々な文化様式が持ち込まれてわが家の文明も日々発展しているのを感じる。子どもが大きくなるにつれてその速度も比例して早くなり、シンプルに楽しい。
新しいものも色眼鏡をかけず、面白がって楽しがってみるのが自分より若い人たちと生活を共にする喜びであり、豊かだ。
YOASOBIの曲を聴いて、MVを見てからこの本を読んだが、先に小説を読んでから聞いたらどう思ったんだろうとできない経験にも思いを馳せてみる。まだ曲を聴いたことがない人は、先に読んでから聞いてみてほしい。MVもしっかり物語だから見てほしい、歌詞が出ているのがすごくいいよ。
何と言っても、4人の豪華な作家陣による「はじめて」をテーマにしたアンソロジー。読んだ後には、いまの自分っていいなと思えるかも。