あなたの思い込みが完成させる物語「六人の嘘つきな大学生」
六人の大学生のうち、誰が嘘をついているかという話ではない。
こんなのネタバレしてもこの本の面白さや本質には触れないので言ってしまうと『全員が嘘をついている』
ただ一人嘘をついていない人がいるとするならば、それは筆者だ。
嘘はひとつもついていないが、わたしたちはあっけなく陥っている。
事実と異なることは書かれていないが(このお話は小説なので現実の事実ということではなくて、お話の中の事実)、わたしたちは勝手に騙される。相手は騙しているつもりはないから不本意かな。
「分人」という言葉を知ってから、より人にはいろいろな面があるということが腑に落ちたことがある。人間の一側面だけを見て、その人そのものを理解したつもりになってはいけないということ。
“分人というのは、その時々の相手やコミュニティによって変化するそれぞれの自分のこと。その全ての文人が本当の自分であるという考えを文人主義という。”
ひとりでいる時のわたし、家族といる時のわたし、友達といる時のわたし、、、どれも本当の自分で、別に裏表があるわけではない。
わたしの印象というのも、人によって違うだろうことは当たり前。
でも、目の前にいるその人のほかの分人を見ることはほとんどないので、自分に見せてくれるその人をその人そのものと思ってしまうことは無自覚的にみんなしていることなのかなと思う。
特に近しい人ほど、自分が見ているその人がその人の全てで本質であるとなぜか思い込んでしまうので、勝手に裏切られた気持ちになったり、がっかりしたりすることも多いのかもしれない。
この本は分人の話ではない。
ただ、自分がいかに思い込みを持って世界を見てしまっているかを語ることなく目前に示してくる。
自分の思い込みに打ちのめされたい人は読んでみてね。
途中から「え、どういうこと」と、手が止まらなくなります。
これが映像化されるということで、どのように表現されるのか楽しみ〜。
言わないこと、表現しないこと、は嘘をついていることではないからね。
読み手の思い込みによって完成される物語
唯一、嘘をついていない作者にあなたも騙される
六人の嘘つきな大学生
朝倉明成
角川書店