丘の上の侍・ニ

夜明け。
戦のあとに吹く
冷たい風が心地よい。

無残な景色をまえに
つい物思いに耽る。

ーーーーわたしは
恐れを知らぬ者だった。

人が戦う理由はきっと
嫉妬や欲望、恐怖
いや愛なのかもしれない

愛する人

自分自身

みな、守りたいものがあるから
戦に向かうのだろう

そうでなければ、ひとはひとを殺せない

しかし、私は違う。

戦場にいる人が、ヒトに見えなかった。

何かの感情に浮かされて人を斬る
カラクリ人形のよう

人形であれば怖くない
どんなに無惨で残酷でも
ソレに魂などないのだから

その人形になど、感情を抱く隙はない

最小限の時間と所作で
斬る。動きを止める。

一瞬でも思考した隙に殺される。

欲望でも恐怖でも愛でもない
私は純粋に楽しいのだった。

死と隣り合わせの戦場が
私の生きる場所。

戦や人斬りに意味などない。

家の繁栄、城の繁栄
そんなもの私にはどうでもよい

領地も、ましてや天下など
そんな面倒なものは要らない。。

守りたいものなど何もない

ただ、戦に出るのみ

わたしは「侍」とも呼ばれぬ、
名無しの人殺しだ-------

もうすぐ日が昇る。
もう誰もいない草原に佇む一人の男は

後ろを振り向きながら
僅かな笑みを浮かべていた。

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