《First編》[1]2004秋③アジア1の歓楽街
新宿駅東口を背にして右側へ進み、アルタ前の横断歩道を渡り暫く道なりに歩く、ドンキホーテ前の横断歩道を渡りセントラルに辿り着く。
深夜0時過ぎだというのに、道すがらはネオンやお店の光、街灯が煌々としていた。人の多さも昼間と変わりはないが、人の種類が違って見えた。私の育った田舎町では、こんな人混みが見られるのはお祭りの時期くらいだろう。新宿はいつでもお祭りのようだ。妖しい危ういお祭りが毎日開催されている街がここだ。
「ここ、特等席だよ。マジラッキー。下が見渡せるでしょ?」
満面の笑みで沙耶が話し出す。
セントラルロードにある大衆居酒屋に二人で入り、丁度2階の窓際の席に案内されたのだ。
「今はまだ0時台だから、ホスト達少ないけど、1時過ぎから凄くなるから見てなよー」
どうやら、このセントラルロードや靖国通りのドンキ前には深夜を過ぎると沢山のキャッチのホストが集まるらしかった。それを沙耶は私に見せたかったのだ。まるで吟味するかのように。
二人でビールで乾杯をする。実は私と沙耶はイベントサークル、通称イベサーで知り合って1年以上が経っていたが、いつもサークルメンバーと一緒に集まっていたので二人きりでじっくり飲むのも話すのも今日が初めてだった。前々から沙耶と仲良くなりたかったが、人目を引く可愛らしい沙耶と並んで歩くと私自身は引き立て役になってしまうような気がしていたので避けていた。先ほどのスカウトとのやりとりの通り、やっぱり引き立て役になってしまったのだけれど。何故二人で飲むことになったのかって。前回のサークルの飲み会で沙耶はお酒が強い事が判明し、酔った彼女はホストクラブに通っている事や自分の仕事について色々話してくれた。平凡でつまらないありきたりな学生生活を送っていた私にとって[ホストクラブ]という言葉は自分には関係のない世界の事だと思った。テレビで特集され始めていたホストクラブ。つい、好奇心と酔った勢いで連れていってもらうことになったのだ。
さっきからひっきりなしに沙耶の携帯が鳴っている。メールだったり電話だったり、不思議に思って聞いみる。
「沙耶は人気者だね。友達?彼氏?」
左右に首を振りながら
「仕事だよー」
「仕事?」
なんだろう、こんな夜中に。キャバクラとかかな。
「仕事、スカウトもしてるんだー」
男の人がスカウトの仕事をしたりしているのは知っていたけれど、女の子もいるんだ。驚いた。意外な事に彼女自身はキャバクラなどは経験がないらしい。スカウトの仕事内容は男の人の内容とあまり変わらないらしい。
話ながらビールを3杯も飲み干した私達はいい感じに酔ってきていた。
「下見てみー」
窓から下を見下ろすと、さっきまでは飲み会帰りの学生達やサラリーマン達でごった返していたセントラルがスーツを着た若い男の子達ばかりになっていた。
「あれがホスト?怖そうだよ。沙耶、どこのお店行くの?」
「怖くないから。チャラそうだけど、大丈夫だよ。お店は決めてないよ。キャッチされに行こー。で、安くしてもらうの。」
怖くないの?安く?キャッチ?疑問と不安と入り交じった感情に支配されそうになったが、酔いもあり好奇心が勝つ。私は大人しく沙耶に付いていく事にした。