思い立って1人でタイ語しか(ほぼ)通じない街へ行く話③
バスで行くの?あ、電車かあ。電車旅もいいね。絶対いい思い出になる。時刻表とかは調べた?エアコンがあるかないかで料金が変わるけど。朝は渋滞するかもだから早めにホテルを出たほうがいいね。ランパーンは花馬車が有名だよね。お寺なら、ワット プラタート ランパーン ルアンがいいと思う。とても古くて歴史的に価値があって、そしてすごくきれいだから。あ、そうこのガイドブックに載ってるこれね。でも、チェンライに行くのをキャンセルしてランパーンって、面白いことするね。—
ガイドブックでもネットでも詳しいことが載っていなくて困った。とりあえず来たものの、由緒とか参拝の仕方とかがわからない。チェンマイのホテルで勧められたワット プラタート ランパーン ルアンに、英語の看板や説明書きはほとんどなく("ここで靴を脱げ"はあった)、周りもタイ人の観光客ばっかりだった。一組だけ白人の家族旅行客が現地ガイドを雇って来ているのが見えた。ひょっとして普通はチェンマイのツーリストセンターとかで個人ツアーを申し込んで来るようなところなのかも。ランパーン駅からボロいソンテオに乗ってヒヤヒヤした道中を思い返し、内心で苦笑いした。ほどなくして、タイ人の団体客が後ろから現れた。彼らの後ろをついていく。ガイドが指をさしてなにかを説明している。団体客が"あ~"と感嘆の声を上げる。ガイドの説明を半分も理解していないが、"へ〜"と同じリアクションをとった。立派な本堂と仏塔が圧巻だった。タイ北部のなかで最も美しい寺院で、最古の木造建築の1つと言われている。本堂は紅い柱と屋根が美しく、柱に金色と黒色の細かい模様が描かれ、奥に祭壇と仏像が安置されている。巨大な仏塔は迫力があり、金色の装飾が施されて重厚かつ華やかだった。地球の歩き方では★1(時間に余裕があれば行ったらいいよレベルのおすすめ度)だったが、来て正解だったと思った。勧めてくれたホテルのスタッフに感謝した。
男性同士のかわいいカップルらしき参拝客もいた。仲良さそうに順番に参拝し2人で自撮りしたりしている。ふと、日本に残してきた彼氏🐻を思い出した。本当は彼と一緒に来たかったよなあ。
仏塔の前にあったタイ語の説明書きを読むと、この寺院は仏陀がこの地を旅して訪れた由緒があるという。次々やってくる参拝客が、本堂で真剣に祈り、仏塔のまわりを周りながら灯した長い線香を持って何かを唱える様子をしばらく見つめた。杖をついてゆっくりと歩を進める高齢の参拝客が、家族に手を引かれていく姿がたくさん見られた。国内の団体客が来るくらいだ。きっとみんな遠いところから来るんだろう。家族写真を撮る彼らを見つつ、ここは本気で祈る場所なんだと思い、しばらく静かに寺の中を散策して回った。
出口で宝くじを売る子どもたちに声をかけられた。申し訳ないけど買わないよ、とタイ語で答えると次のタイ人の観光客にあっさり切り替えて声をかけていた。売店でアイスを買って頬張り、寺の前に広がる土産物の屋台を見物した。こういうのって伊勢神宮のおかげ横丁みたい。花飾りをあしらい、ジャスミンの木の下で観光客を静かに迎える花馬車がきれいだった。
そろそろ、次の場所に行こうか。日はまだ高い。チャーターしたソンテオのおっちゃんは、売店の近くのベンチで座ってぼんやりしながら待っていた。
次、どこに行くの?チークでできた建物があるところ?
―ここだよ、最初に駅で写真を見せただろう?
なんていう名前?
―ワット プラタート ドイ プラ シャンだ。山の上にあってきれいだぞ
知らない…
再び大きなエンジン音を立てて、窓を全開に青い羽の扇風機を全力で回し、オンボロソンテオはゆっくり動き出した。
(つづく)