「でもそれn=1でしょ?」への対処法
最近タイムラインでよくみかけるstand.FMを使い始めました。音声コンテンツってハードル高いなと思っていたのですが、レターという質問機能があるので話すネタが出来ていいですね。先日話した、定性あるある「でもそれn=1でしょ?」への対処法についてnoteにも書いてみようと思います。
いただいたレターは以下のような内容でした。
「でもそれn=1でしょ?」
ユーザーインタビューやユーザーテストなどのUXリサーチに携わる方で、リサーチ結果を伝えたときにこの言葉を投げかけられたことはありますか?
私も前職でUXリサーチの取り組みを始めたばかりの頃、
「たまたまそのユーザーがそうだっただけなんじゃない?」
「ユーザーテストでダメでもリリースしてみたら当たるかもしれないし」
など言われたことがあります。今思えば自分の説明が至らない点もありましたが、当時の自分は「ユーザーを理解してより良いサービスを届けたいという気持ちは同じはずなのに、なぜわかりあえないんだろう…」と心が折れそうになっていました。
相手の価値観を理解する
でも、それで「あの人は何もわかっていない!!」と憤慨するだけでは何も変わりません。ユーザーに共感しインサイトを発見しサービスに活かしていくUXリサーチの仕事をしている方にこそ、その対象をユーザーだけでなく社内のステークホルダーにも向けてみてほしいのです。「でもそれn=1でしょ?」という言葉を投げかけてきた相手は、何を大事にしているがゆえにそう言っているのかを理解して自分のコミュニケーションを工夫していかなければ、分断されたままだと思います。
私がユーザーインタビューをするときに、気をつけていることとして相手の話を「矛盾している」と決めつけないことがあります。これには大学時代に人類学の先生から「相手がどういう目で世界を見ているのか?を深く知るのが人類学という学問だ」と教わったことが大きいです。自分の目から見ると相手の話は矛盾しているように見えても、相手の目から見ると筋道が立っているかもしれないのです。
ユーザーに価値あるものを届けようと思っているのに、なぜ1ユーザーの意見には「でもそれn=1でしょ?」と耳を傾けないのだろうか、というのは自分の目からみた相手の矛盾点でしょう。ただ、相手の目からみると違った世界があるかもしれないのです。例えば、事業の責任者、営業、エンジニア、カスタマーサポートなど…役割によって、もしくは一個人の価値観によっても大きく変わるでしょう。
わかりあえないことを前提に、なぜわかりあえないのかを相手の目からみた世界を理解し、自分の目からみた世界との差分を客観的に分析し、お互いが歩み寄れるようなアプローチを試すことが大事だと思います。例えばリサーチに巻き込んで一緒にn=1の目撃者になってもらったり、定量調査をあわせておこなうことでなぜそのn=1に着目すべきなのかを説明したり。誰にでも通じる王道などないので、試行錯誤するのみです。
流れに乗っかる
ムーブメントに乗っかるのも一つの手でしょう。昨年スマートニュースの西口さんが書かれた『顧客起点マーケティング』という本がとても話題になりました。定量アンケートに定性を組み合わせたアプローチで「たった一人の“N1”を分析する」ことの重要性が説かれており、かなり具体的にやり方が紹介されているので参考に実践してみた企業も多いのではないでしょうか。このように注目度が高まった時にうまく流れに乗っかって定性リサーチの意味や重要性を体感してもらうのも効果的です。
定性データの使いどころを啓蒙していくこと
主に定性データを扱う仕事をしていて、定性vs定量のように二項対立的に捉えらえることがよくあるように思っています。専門性が異なるのでUXリサーチャーとデータアナリストのように職種や役割がわけられている企業も多く、お互いに距離がある場合もあるでしょう。ただ、定性定量もどちらもユーザーを理解しより良いサービスを作っていくためのアプローチのひとつであって、どちらが偉いとかすごいとかではなく、目的に応じて適切に使い分ければいいのです。このことをステークホルダーに啓蒙していくことも大事だと思います。
Insight Tokyoが立ち上がりました
この定性と定量の分断をもっと近づけていきたい…!ということでSTORES.jpでデータアナリストをやられている @jnishimu さんを中心にInsight Tokyoというコミュニティが立ち上がりました。3/25に「UXリサーチ×データ分析」をテーマに初イベントを開催予定なのですが、すでに400名近い方にお申し込みいただいていおり同じような課題感や興味をもっている方が多いことをとても嬉しく思っています。イベントをきっかけに対話し協働を促進していけるといいなと思います。そしてイベント説明文がとても素敵なのでぜひ読んでみていただきたいです。
今回は、「UXリサーチ×データ分析」をテーマに開催します。 お互いに補う関係にある両者の得意なこと、苦手なことを知ることでより深くユーザーを理解できるようになればと考えています。