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NYファッション・ウィーク中に開催された一般公開イベント
今秋も、NYFWが9月11日まで開催され、ファッション業界関係者が世界中からこの街に集結した。
パンデミックを機に、ファッションショーの在り方が大々的に変化する事も予想されていたが、その予想は裏切られ、NYFWの在り方は変わっていない。デザイナー、モデル、バイヤー、ライター、インフルエンサー、コンテンツクリエーターなどが大移動し、大規模にセットされたステージで、素晴らしいランウェイを堪能する。
その様なサステナビリティや気候変動問題からすると、非常に残念なことではあるが、ファッション業界のマーケターとして、15年以上携わってきた私としても、この華やかさには心が躍る。
実は、このファッション・ウィーク期間中は、ここぞとばかりに、大中小のブランドや小売り、様々な組織がイベントを実施している。一般向けに公開されているPop-upストアやイベントなども多い。
そこで、今回のNOTEでは、実際に足を運んでみて、興味深かったものをいくつか紹介したい。
BARNEYS NEWYORK x HOURGLASS
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多くの人々がOPENするのを待ち構えていたポップアップのひとつは、間違いなくBARNEYS NEW YORKだろう。9月5日から10月1日までの約1カ月間、HOURGLASS COSMETICとのコラボレーションにより、オープンしている。この場所を体験すると、百貨店の良さが凝縮され、従来のビル一棟など必要ないのでは?と、考えてしまう。
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そこには、この場所ならではのNY発グローバルブランドから、注目の気鋭ブランドまでのセレクションが並ぶ。また、店内ではメイクアッサービスや、日替わりのイベント、日替わりでセレクション商品がドロップされる。
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ご存じの通り、NYにあるBARNEYSは、2019年に倒産し、2020年に店舗を閉鎖している。
それが、今回、HOURGLASSがブランドとして成長する基点になったBARNEYSと一緒にPOP-UPを開催したいとの事で実現されたのだ。その点からも、今回の店舗の作りはとても興味深い。HOURGLASSの商品や体験はもちろん店舗内にあるが、それが大部分を占めているわけではない。「当時のエネルギーやユニークな美しさを表現したかった」、とHOURGLASSの創業者で社長のCARISA JANESは、FORBESのインタビューにもこたえている。それを実現するために、当時のクリエイティブディレクターや、ファッションディレクターのJULIE GILHARTをこのプロジェクトに招き入れた。
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JULIEは、世界的にもファッション業界の大御所であるが、当時からサステナブルブランドの支持者でもある。POP UPには、しっかりとその要素が注入されており、個人としても大好きなSKY HIGH FARM UNIVERSEなどがセレクションされていた。
GIORGIO ARMANI x Kith
ラグジュアリーブランドとストリートの絶妙なコラボレーションでプロダクトを昇華する事が得意なKithと、Giorgio Armaniが初のコラボレーションを発表した。その幕開けは、NYFW中にマンハッタンの高級住宅地で知られるアッパーイーストサイドにある高級タウンハウス(約20ミリオン㌦)での2日間限定Popアップ。
米国やカナダの店舗やオンラインでは、9月13日に発売。アジアおよびヨーロッパでは9月18日に発売を予定している。
このポップアップでの体験は、今ブランドたちが力を入れている”没入感”の極みともいえる体験だった。
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その体験は、こうだ。
Pop-upの家の前で、数名が束ねられ、まるで一緒にホームパーティに来たかのようにゲストとして案内される。案内人は、Kithの店舗で実際に働く店員。その彼が、このコレクションのコンセプトでもある4名(種類)の成功者が住んでいるという想定の部屋で、彼らの持ち物である洋服や鞄、アクセサリーなどを丁寧に紹介していく。
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その4種類の成功者とは、アーティスト、エンターテイナー、起業家、トラベラーであり、キャンペーンビデオには、Kithの創業者であるRonnie Fiegも起業家として登場する。
この体験は、今までのポップアップとは全く異なる体験で、訪問者(顧客)は、家に招かれたゲストでもあり、自分自身をコンセプトの成功者と重ね合わせる体験でもある。
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場所の設定も、商業的な店が並ぶKith店舗が位置するSOHOではなく、レジデンシャルなエリア。案内人である店員も、一人一人との会話や関係性を築く事が楽しいと語っていた。
また、今回のインテリアにはArmani Casaの家具はもちろんの事、NYで活躍する友人のフラワーアーティストであるEriko Nagataの素晴らしいアレンジメントが、益々場の雰囲気を盛り上げていた。
WALMART X BRANDON MAXWELL
Walmartは、初めてファッションに特化した小売り(Pop-up)店舗を、米国で唯一店舗がないNYシティの洗練されたファッション地域であるMeatpacking Districtにて2日間オープンした。これは同時に、NYファッションウィークへ公式に参加した、という事でもある。
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Walmartは、人々がファッションアイテムを一番購入する場、つまりファッション・ディスティネーションになる事を目標に掲げている。過去数年間は、その実現のために、様々な試みをしてきた。そして初めて、今年で3年目になるデザイナーのBrandon MaxwellがディレクションするWalmartブランドScoopと、Free Assemblyの売上増加を盾に、Pop-upをOpenしたというわけだ。
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Pop-upをブランドが実施する理由は大きく分けて二つある。
①Pop-up自体からの売上を目的とすること
②ブランドの世界観や商品展開を見せ、ブランドの印象を変える(植え付ける)こと
①の場合には、実際に商品在庫を豊富に抱える店舗近くで実施されることも多いが、今回Pop-upが実施されたNYCは、アメリカで唯一Walmartの店舗が存在しない。
Walmartのケースは、完全に②の理由で実施された。私自身も実際に足を運んでみて、そのデザインや品質、そして価格に驚いた。確かに、可愛いくて、着てみたくなるのだ。これらの商品が百貨店などに陳列されていたら、まさかWalmartのプライベートブランドだと信じる事は無いだろう。
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そもそも低価格で大量に服の生産・販売をする事はサステナブルではない
Walmartは、プライベートブランドへの注力ならず、他のブランドのファッションセレクションや、マーケットプレイス(二次流通)も強化している。先日、WalmartとスニーカーのリセールプラットフォームStock Xのパートナーシップも発表されたばかりだ。これにより、Walmart.com上で、Stock Xの中で流通しているNike JordanやTravis Scotts, New Balance、Asicsなどといった商品も手に入るようになる。
今回のポップアップは、Walmartファッションが、加速していく始まりを見た気がする。
追記であるが、こちらのPop-upのフラワーアレンジメントも、Eriko Nagataが手掛けたものである。