見出し画像

嫌いだけれど、いなくちゃ夏が始まらない

夏なのに、とても静かだった。

7月の始め。通勤で駅まで歩いている時も、お昼休みに外に出た時も、すごく静かで違和感があった。「とても暑いし、季節は夏なのに、今までと違うのは何なんだろう?」と、首をかしげながら毎日歩いていたところで、ハタと気が付いた。

静かな原因は、蝉が鳴いていないことだ。

今年は梅雨がすぐに終わってしまったからか、カンカン照りの夏の日がいつもより早かった。それにも関わらず、蝉の孵化は例年通り行われたのだろう、7月始めは炎天下でも街から虫の音が消えていたのだった。

鳥や虫など、飛ぶ生き物が全般的に苦手な私は、例外なく蝉も嫌いな部類に入る。特に夏の終わりは恐怖。力なく倒れてきたり、地面に転がって、突然最後の力を振り絞って動き出したり、木と間違えて止まってきたりする。頼むから近寄らないでほしい。なんなら、あの鳴き声で体感気温も上昇している気がする。

蝉に近づかれる恐怖に毎年恐れているし、ギラギラした太陽の下、蝉の声を聞くと外を歩く気持ちも無くなってくる。

けれど今は何かが違う。

“大好きな夏の、大嫌いな厄介者”だったはずなのに、いざ声が聞こえないとなんだか夏が来た気がしないのだ。

そんなことを考えた翌週に、しっかり彼らは鳴き始めた。

今年の夏も私は、蝉に近寄らないように注意深く過ごす予定だ。飛んできたら泣き出す自信もあるし、蝉の声が聞こえなくなって、少し風が冷たくなれば、いつもみたいにほっとすると思う(そして夏が終わってしまうことを、ちょっと切なく感じると思う)。

そして、ミーンミーンやさまざまな鳴き声を聞きながら、「今日も暑いなぁ」と汗を拭うのだ。嫌いだけど、夏だなぁと思いながら。


静かな炎天下の中で、「嫌いなモノを必要とする違和感」を覚えて、なんだかこれも悪くないなぁと思ったのでした。

ーーーーーーーー
毎日数人でお題を決め、noteを書いてます。ハッシュタグは #毎日note
テーマ #違和感

いいなと思ったら応援しよう!

もりやみほ
最後までありがとうございます!いただいたサポートは、元気がない時のご褒美代にします。