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夜中に爪は切らなかったのになぁ
着信に気がついたのは
マナーモードにしていてしばらく経ったあとの
徳島駅行き高速バスが三原にさしかかった辺りだった。
あと1時間で到着するし、そのままにしようかとも迷ったが
(あ そうだ、トイレがある)と気がついて
個室に入って 発信ボタンを押した。
たぶん母は、私に電話をかけるまでの時間で
悲しみに浸り
お別れを出来たのだろう、事務的に「あのな、お父さん亡くなったんよ、ほなけん・・・」とすぐその後の行動を指示して電話を切った。
茫然と座席に戻る。
親の死に目に会えなかった、、
遠くへ嫁に出た私にとって、同時に覚悟したことじゃないか とか
人間は必ず死ぬ とか
順番 だとか
若い時ほど理屈で頭に入っていたことが、全く咀嚼出来なくなっていた。
父さん子で反発したり本音で話せたり甘えたりしていた年齢不詳の『私』が
真っ暗闇と
車窓を眺めている58歳の『私』を
行ったり来たりしている。
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ああ、『ハウルの動く城』で
そんな描写があったなぁ フワフワと
徳島駅に着いて、義兄の車で葬儀会場へ
そのまま打ち合わせの席に着いていた。
なんだか表立って悲しむ間も無く
悲しむ主役は母だからと
抑え込んだものもあるのか
細々した事項を決める場に数時間居て、
打ち合わせはこれで終わりましたみたいになった時
ハッと
「お父さんに会わせてもらえますか?」と
かろうじて流れを変えた。
葬儀場の霊安室はもう全くの冷蔵庫で
「心置きなくどうぞ」と言われたものの、
すぐ歯がカタカタと鳴るほどの寒さで
そこに入れられて平気に居られた父は
もうそれだけで
違う存在になってしまっていた。
そこには別れのプロセスはもう消滅してしまっていた。
当初は病院に直行予定だったので、
高速バスの車中で
お父さんに言おうと思って選んでいた言葉も、
息のあるうちに(意識がないとしても)伝えられていたなら、
(聴いているかも 届いているかもしれない)というある意味自己満の
だんだんと離れてゆく悲しみに包まれたのかもしれないけれども、
冷蔵庫の中に平気で居られる父には、ガタガタ震えている状態で言う心境になれなかった。
翌日 納棺に立ち会った。
儀式儀礼が煩わしいもののように言われる昨今だが、こうやって『死』を受け入れていく。
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イザナミの死を受け入れられなかったのも、
弔いのプロセスがなかったんだろうな
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葬儀の数日後、姉家族と南海岸をドライブした。
「ここからの眺めが好きなんじゃ」
と言っていた山座峠や
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恵比寿洞の駐車場で車上荒らしにあい、ぐちゃぐちゃにかき回されていたけど、取られたものはなかったとか、
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父さん子だった私は、父の言葉をいくつか記憶していた。
海を見ながら「とうさーん!」と叫ぼうと思っていたのが姉家族が居るところでうまく声が出ず、
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ただ淡々と
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美しい海岸線を眺めた一日だった。