誰しもちょっと差別するって認めたら、みんな仲良くできるかも: ”Everyone's a little bit racist.” from AVENUE Q
“You're a racist.”
と言われたら何と返しますか。
今日はAVENUE Qというミュージカルをご紹介します。
役者が舞台上でパペットを持って演じる上に、パペット同士のベットシーンまである(笑)という非常に斬新なスタイルのミュージカルで、2004年にはトニー賞も受賞しています。
パペットというとセサミストリートを想像する方が多いのではないでしょうか。パペットの制作陣が同じらしいので、雰囲気はセサミストリートの大人版といった感じです。
個性豊かな面々が暮らすAVENUE Q(アベニューQ)で繰り広げられる若者達の青春を描いた作品。基本的にはコメディなのですが、政治や社会を皮肉るような描写があったり、実はメッセージ性の高い作品なのです。
その中から一曲ご紹介したいのが、
Everyone's a little bit racist.
(みんなちょっと差別主義者)
です。
登場人物が揃って歌う終盤の歌詞がこちら。
Everyone's a little bit racist, it's true.
(みんなちょっと差別主義者、ほんとさ)
But everyone is just about as racist as you!
(でも、みんな君と同じくらい差別主義者なんだ)
If we all could just admit that we are racist a little bit,
(もし僕たち皆が、誰しもちょっと差別するって認めて)
And everyone stopped being so PC
(正しくあろうとすることを止めてみたら)
Maybe we could live in harmony!
(みんな仲良くできるかもね!)
該当箇所ではないのですが、楽曲の雰囲気が味わえる動画を発見しましたので、是非こちらをお聞きになってください。
ちょっと不思議な絵面ですよね(笑)
誰もが差別主義者?
私は差別なんてしない、と思うかも知れません。
でも、よく考えてみて。
この曲を歌っているのは本作のメインキャラクターである、大学を卒業したものの就職できないプリンストンと、幼稚園の教師をめざすモンスターのケイト。
モンスターってみんな親戚なのかと訊くプリンストンに、モンスターを一括りに扱うなんて差別だと怒るケイト。そんなケイトに、プリンストンは「君だって差別しているじゃないか」と応じます。
Princeton: What about that special Monster School you told me about?
(君が話してくれた、特別なモンスター学校のことだけど)
Kate: What about it?
(それが何か?)
Princeton: Could someone like me go there?
(そこには僕みたいなやつは通えるの?)
Kate: No, we don't want people like you-
(だめよ、あなたみたいな人たち)
Princeton: You see?! You're a little bit racist.
(だろ?君ってちょっと差別主義者だよね)
Kate Monster: Well, you're a little bit too.
(でも、あなただってそうよ)
Princeton: I guess we're both a little bit racist.
(僕たち二人ともちょとだけ差別主義者かもね)
Kate Monster: Admitting it is not an easy thing to do...
(認めたくはないわ)
Princeton: But I guess it's true.
(でも、たぶんそうだよね)
二人の間に何かしらの線を引くこと自体が差別を引き起こすのではないでしょうか。
そして、こちらは黒人のアパートの大家さんGaryとPrincetonのやり取り。
Gary: You’re talking about BLACK joke!
(黒人を馬鹿にしてただろう!)
Princeton: Well, sure, but lots of people tell black jokes.
(まあね、でも、みんなやってるじゃない)
Gary: I don't.
(俺はしない)
Princeton: Of course, you don't -- you're black!
(そりゃそうだ、君は黒人だもの!)
Princeton: But I bet you tell Polack jokes, right?
(でも、君はポーランド人を馬鹿にするだろ?)
Gary: Well, sure I do. Those stupid Polacks!
(そりゃそうさ。ポーランド人は馬鹿な奴ら!)
Princeton: Don't you think that's a little racist?
(それってちょっとした差別じゃない?)
Gary: Well, damn. I guess you're right.
(ああ、くそ。あんたの言うとおりだ)
被差別対象と見られている人だって差別をすることもあるわけです。
raceとはふつう「人種」と訳されます。
ケンブリッジ英英辞典によれば、「ある類似した物理的特徴を持つ人たちのグループ」あるいは「同じ言語・歴史・性格を共有する人たちのグループ」だと定義されています。
また、racistは「人種差別主義者」と訳されるようです。
ケンブリッジ英英辞典の定義では「他のraceが自分が所属するraceよりも劣っていると考え、不公平に扱うこと」となっています。
人種というと、肌の色や国籍などをイメージしますが、広い意味では例えば「大卒」「最近の若者」「未婚」「背の高い人」「ネイティブスピーカー」などという括りも人種であり、そのようなグループを優劣を付けて扱うことは差別だと考えることができるのではないでしょうか?
差別なんて、日本には関係ないと思っている人も少なからずいるかもしれません。
私がイギリスに留学して衝撃だったことの一つは「yellow」と呼ばれて卵を投げられたことです。自分の肌が「肌色」でないことを痛感しました。
同時に気づいたことがあります。
無意識のうちに「X国人って~だよね」、「あの人は~だから」という発言をしている自分に。
ちょうどAVENUE Qが公開された頃、私はイギリスにいました。そこでAVENUE Qを観てCDも購入しました。今でもふとした時に思い出すのが、この"Everyone's a little bit racist."。軽快なメロディーは少し心を穏やかにしてくれます。
一番怖いのは「自分は差別なんてしていない」と思い込んでいる人だと思います。差別をしていない人なんているのでしょうか。
全く同じ人なんていない。
絶対に正しい人なんていない。
AVENUE Qの面々が言うように「誰しもちょっと差別する」と認めたら、何かが変わるのではないかと思うのです。
そんな私の気持ちを包んでくれる、中島みゆきの「Nobody is right」を最後にご紹介しておきます。
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