セクシー課長、現る

どこかの大臣が、ひと言もセクシーと言っていないのに、
セクシー大臣とあだ名をつけられた。揚げ足ばかり取る今の世の中。
他にもっとやるべきことがあるんじゃないか、と憤りを感じてしまう。

「ところで、セクシーってどういう意味だ?」

気になって、辞書で調べてみた。
性的な、みだらな。つまりエロ・・・おっと、それだけじゃない。
アメリカでは「魅力的な」という意味でこの言葉を使われることもあるらしい。

「ふーん、色んな意味があるんだ」

セクシーって、なんていうかこう、エロティックな言葉だと思っていたけれど、それはどうやら誤解だったらしい。魅力的だという意味もあるなら、褒め言葉にもなりそうだ。

「俺もちょっぴりセクシー、はじめてみようかな?」

エロいだけの言葉じゃないということを知った俺は、
早速その日から色気のある男を目指して生きるようになった。

「あ、あの男の人カッコ良くない?」

「確かに~。俳優の〇〇に似てるかも!」

街を歩くと、周りにいる若い女の子がそう言ってウワサをしているような気がした。一般人なのに、芸能人並みに目立ってしまうとは。
少し恥ずかしくて、外を歩くことができない。

「もう少し大胆になっても良いかな?」

嬉しくなった俺は、Yシャツのボタンを2つ開けた。
心なしか、身体がひんやりとして涼しい。
火照った身体が冷たくなり、快適になるのを感じた。

「ちょっと寒いなあ。部屋の暖房上げ過ぎじゃない?」

Yシャツのボタンを二つ外すと、いつもより部屋の中が寒いことに気付いた。前は暑い、暑いと言って部屋の暖房を上げていたのに。

「そんなことない、普通ですよ」

「課長が薄着なんですよ。もうちょっと着込んだらどうですか?」

そう言われたが、納得いかなかった。
むしろ、きみたちが薄着になれば、寒いことに気付くんじゃないかと思った。

「でも、暖房をつかわないって、エコで良いですね」

「まあ、確かに。薄着になれば、暖房をつける必要もないな」

異性からモテて、環境問題が解決して、一石二鳥。
最高じゃないか、セクシー。
クールジャパンを推奨している、今の世の中にはピッタリだ。

「どうだ、最近の俺。ちょっぴり色気が出てきたと思わないか?」

「はあ?何言ってるの、気持ち悪い」

家に帰ってそう自慢気に話したら、妻に呆れられてしまった。

「あの大臣みたいに、色気のある男を目指そうと思うんだ」

「全く似てないから、やめたほうが良いわよ」

よく考えたら、俺にはあの大臣のように美人な妻もいなければ、将来を期待される有望な息子もいない。だが、俺は負けない。今日も明日も、そしてこれから何十年後も、セクシー課長としてあり続ける。

「あなたって、とっても魅力的ね!」
そう俺を褒めてくれる人が表れると信じて。


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