初のレギュラー男子プリキュア誕生によせて -これまでのプリキュアを少し振り返る
2月5日(日)からスタートする新番組「ひろがるスカイ!プリキュア」において、プリキュアシリーズ初のレギュラー男子プリキュアの誕生が話題になっている。
プリキュアファン以外からも大いに反応があるようだが、その実、毎年見ているファンからすると「ようやくきたか」という感じではないだろうかと私は思う。少なくとも私はそうだった。もう既に、その素地は十分に整っていたからだ。
私は「ハートキャッチプリキュア!」からプリキュアの世界に入ったオタクであるのでそれ以降を中心に、少し、プリキュアと性別について思いつくところを語ってみたいと思う。
“男の子っぽい”プリキュアというと、最初に思い浮かぶのが、「ハートキャッチプリキュア!」(2010)のキュアサンシャイン=明堂院いつきである。
男子の制服をまとった格好いい生徒会長が実は女の子。みんな大好き男装の麗人キャラ。家庭の事情で後継ぎとして男装をしている彼女には、内心可愛いものへの憧れがあった。それを開放した姿がキュアサンシャインであり、変身後は一人称も「僕」から「わたし」に変わる。プリキュアになって以降、彼女が徐々に自分の中の女の子らしさを受け入れていくエピソードなども挟まれており、彼女はあくまで男装をしている女の子という位置づけだった。
この系譜を継いでもう少し進んだのが「キラキラ☆プリキュアアラモード」(2017)のキュアショコラ=剣城あきらだろう。
彼女は自分の好み(似合うスタイル)として一見男子とみえるような姿をしている。変身後もボーイッシュな雰囲気はそのままに、スカートのような意匠はあるもののその下のスパッツがしっかり見えているスタイルだ。声もどちらかというと格好いい雰囲気がある。一方、彼女は決して「男の子」を装っているわけではない。性格は母性で皆を包み込むようなお姉さんで可愛いものも好きであり、見た目と中身や好みはそれぞれ独立して自由、という新しい立ち位置のキャラクターとなったと思う。
彼女らはあくまで男の子っぽい「女の子」であったが、女の子の姿として色々な切り口が模索されてきたことがわかる。
そして、はっきりとした性別へのアプローチとして挙げるなら、まずは「映画 魔法使いプリキュア!奇跡の変身!キュアモフルン」(2016)に登場するキュアモフルンだろう。
映画限定のプリキュアであるが、喋るぬいぐるみのモフルンがプリキュアになった姿であり、モフルンには性別設定がない。おそらく「女性ではない」プリキュアとしては初のキャラクターではないだろうか。デザインも、可愛らしいがパンツ(キュロット)スタイルであり、他の部分もぬいぐるみ時の意匠を継いだものになっていて男の子にも女の子にも見えるデザインだ。
余談だがキュアモフルンはとてもいい映画なのでおすすめである。
そして、紛うことなき初めての男子プリキュアといえば、「HUGっと!プリキュア」(2018)のキュアアンフィニ=若宮アンリである。
(公式のキャラクター紹介がなかったためニュース記事へのリンクです)
これは一時的な奇跡の変身という立ち位置でレギュラー戦士ではないが、作品のテーマでもある「自分のなりたい自分になる」を体現した姿であった。
もともと、彼は中性的な容姿をもつハーフという設定で、ジェンダー観に囚われないファッションや言動は作中でも他の人物と考えが合わないシーンなどもあった。時代性を取り入れたキャラクターだったと言えるだろう。
また、このハグプリでは最終決戦で応援していた老若男女すべての人々がプリキュアになるという衝撃展開もあった。そう、「女の子は誰でもプリキュアになれる」を超えて、ついに「誰だってプリキュアになれる」時代がきたのだ。
こうして徐々にプリキュアの裾野は広がってきた。
続いて出てきたのが最新作「デリシャスパーティプリキュア」(2022)のブラックペッパー=品田拓海である。
彼はプリキュアではないが、変身してプリキュアと共に戦う準レギュラーである。最初にビジュアルが発表された時は、ついに男子プリキュアがレギュラー入りか?!と思ったが、あくまでプリキュアではない戦士という立ち位置だった。それでも、これまで男子はあくまでサポートキャラクターだったプリキュア世界で、変身して戦うという立ち位置についたのは新しいだろう。同時に、サポートキャラクターとしてのマリちゃん(ローズマリー)も、共に戦う男性キャラクターとして一歩踏み込んだポジションを模索していたように思う。
語り落としている部分もあるだろうが、自分がぱっと思いつく範囲で一通り振り返ってみた。
プリキュアシリーズでは、前々からこうして性別という枠への様々なアプローチがなされてきたと思う。デザインとしてパンツスタイルの模索もされてきた。(上に記載しなかったがキュアラメールのパンツスタイル等もデザイン面の挑戦の一つではないだろうか)
そしてプリキュア20周年を迎える今年、レギュラーメンバーとしての男の子プリキュア、キュアウィングがついに誕生する。
そもそもが「女の子だって暴れたい」からスタートしたプリキュアが、「男の子だってプリキュアになれる」というステージに入ったのはなんだか面白い。
子育て中の親として言うと、実際にプリキュアが好きな男の子に出会ったことも確かにあるので、そういう子たちも含めたメイン視聴層にキュアウィングがどう受け入れられていくのか少し興味深いところである。
また、「ひろがるスカイ!プリキュア」では、これまで二番手に据えられがちだったブルー系プリキュアが主人公になっているのも初の試みと思われる。成人のプリキュア(18歳)もレギュラー初ということだし、そうやって色々な挑戦をしていく姿勢にはわくわくする気持ちをもらえる。これからも応援していきたいと思う。
そして最後に。
初のレギュラー男子プリキュア、というのは確かに新たな一歩だが、一方でそれを作中では特別に位置づけなくても良いと私は思っている。
同じく私の好きなスーパー戦隊「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」でも、初の男性ピンクであるキジブラザーは放送前大きな話題となった。だが、蓋を開けてみればどうだろう、キジブラザー=雉野つよしは、そんなことどうでもよくなるほどに濃い個性的なキャラクターとして大暴れしている。もはや彼がピンクであることを気に留めているファンなど皆無であろうというところまできた。そう、それでいいんじゃないか。
キュアウィングも、決して「男の子プリキュア」であることをアイデンティティにするのではない、新たな一人のプリキュアとして魅力的なキャラクターになることを、一人のプリキュアファンとして期待している。
ひろプリ放送開始、我が子と共に楽しみにしています!